約 5,047,515 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1045.html
零より来る者──あるいは準々決勝(前編) ボク・クララ……槇野梓と晶お姉ちゃんの神姫・ロッテお姉ちゃんは “鳳凰カップ”の、ついに準々決勝まで勝ち上がったんだよ。でも、 これが最後の戦い……ここで勝っても負けても、ボクらは進まない。 それは晶お姉ちゃんと会った時、改めて確認した“約束”なんだよ。 そう言えば、その時に“面白い賭けをまた行った”って言ってたね。 『という訳で、勝った暁には改めて私の言う通りにしてもらうと』 『千空さんに詰め寄ったんだね、晶お姉ちゃん。でも負けたら?』 『……む、そこまで決めていなかったな。まあ勝てば問題ない!』 『マイスターってば、変な所だけアバウトですの~……全くもう』 『大丈夫ですよ、対戦するまでに相手が負けた場合も……ですし』 敗北を認める為、渡瀬美琴さん達“黒葉学園神姫部”の面々がブースを 訪れた時のやり取りらしいんだよ?千空さんの顔が、目に浮かぶもん。 そう考えている間も、ボクはロッテお姉ちゃんのメンテナンスをする。 ハンゾーさんとのバトルによる影響は、まだ少しだけ残ってるんだよ。 「……稼動効率は八割半。この差が響くかもしれないよ、大丈夫?」 「大丈夫ですの、梓ちゃん。わたしは自分の誇りある戦いをします」 「槇野さんー、槇野梓さんとロッテさんー?そろそろお時間ですよ」 丁度セッティングが完了した所で、呼び出し係のお姉さんが入ってくる。 そう。ここから先は、マスターと神姫に一つの個室が与えられるんだよ。 流石に大きなトーナメント戦、ってだけはあるかもね……緊張するもん。 「大丈夫ですの、梓ちゃん?何だかさっきから動悸が激しいですけど」 「ボクの胸に、耳を押し当てるのは感心しないよ……でも嬉しいもん」 「じゃあ、此処に立って!合図したら上がってください、御武運を!」 ADらしき人が、忙しなくボクらの立ち位置を決めて下がっていくよ。 舞台袖と言える階段の裏に立って、ボクらの名前が喚ばれる時を待つ。 多分、呼ばれるのはロッテお姉ちゃんの名前だけかもしれないけどね? でも先に呼ばれたのは、ボクらの思いがけない名前だったんだよ……! 『──────弁慶選手、マスターの凪千空選手と共に入場です!!』 「……えッ!?ビンゴなんだよ、ロッテちゃん……ここが正念場かも」 「ちょっと出来過ぎですの、八分の一の確率とは言っても……でもっ」 「やるしかない、そうだもんね?……呼ばれたね。行こうよ、一緒に」 肯くロッテお姉ちゃんを抱え、ボクは大群衆の中へと一歩ずつ進み出る。 もうアナウンスの声は聞こえない。ボクは、彼らの分析を始めていたよ。 弁慶さんは軽装のハウリンタイプで、マント風のバックパックと鎖だけ。 千空さんの方は緊張で青ざめている……その内に倒れないか、心配だよ。 スタッフに案内されるまま、お互いに特注のオーナー席に座って、神姫を エントリーゲートに導く……ここで漸く、相手との通信が開いたんだよ。 「まさか当たり籤を引いちゃうとは思ってなかったんだよ、千空さん」 『う、うぅ……でも、僕らだって相応の意地がありますっ。ね、弁慶』 『……大丈夫。弁慶、絶対負けない。ハンゾーの仇、きっと取る……』 「わたし達だって、戦乙女の誇りに賭けて……この戦い、取りますの」 『お待たせしました!これより準々決勝第三試合を、開始しますッ!』 ゲートが閉じられ、舞い踊る二人の為の台(うてな)が用意されるんだよ。 ステージは……港湾地域の倉庫ブロック。それなりに障害物が多いもん。 でも、臆する事はない……そう思って、ボクは“SSS”をセットする。 ……でも戦闘開始前に、マイクパフォーマンスの時間があるみたいだね。 「……最初に、言っておく。弁慶は……かなぁーり、強いッ!!」 バックパックに仕込まれていた多数の武装を大きな剣に変形させてから 地面に鋭く突き立て、ロッテお姉ちゃんを指差して宣言する弁慶さん。 ハンゾーさんもだけど、“神姫部”の娘達は変わった性格なのかもね? ……だって、宣言の後に武器をまたバックパックへ戻してるし。うん。 「“零”に等しい軽武装で、ここまで来てますしね……でも」 「煩いッ!……お前もここで、打ち砕くッ……さあ、始める」 「……人の話は聞いてくださいですのっ!始めましょうッ!」 『弁慶・ヴァーサス・ロッテッ!!レディ──────ゴー!!』 開始の合図と共にボクはサイドボードを起動して、さっきセットしてた “SSS”を投下する。さっきの戦いで、“切り札”は見せたんだよ。 だから、隠し立てする必要もない……代わりに、ここからは実力だけが 求められる……本当の“正念場”かもね。だから、ロッテお姉ちゃんは 投下した“SSS”を装備して、弁慶さんと睨み合ってるんだよ……。 「さぁ、何時でもかかってきてくださいですの!」 「……今、行く!……明鏡止水……ッ!!」 「きゃっ!ハンドガンの猛攻……!ですけどっ!!」 バックパックに仕込まれた数種の武器をスタビライザー代わりにして、 二挺のハンドガンを抜いて、軽やかに乱射を仕掛ける弁慶さん。脚部に ツガルタイプのブースターが仕込まれているらしく、機動性を持たない バックパックでも、その移動力は馬鹿にならないんだよ。だけど……! 「……避けている!?弾丸を……!!」 「アーンヴァルは射撃と機動戦闘の寵児。射線は見えていますの!」 「これでは、仕留められない……でも、距離……詰めたッ!」 『いけない……ロッテちゃん、離れて。相手は、白兵戦特化だよ!』 「──────なっ!?」 「アイン!ツヴァイ!!ドライッ!!!フィーアッ!!!!」 そう。確かに互いの距離は詰まっていたんだよ……白兵武器で戦える、 最大限の距離までにはね!そしてアルマお姉ちゃんに匹敵する早業で、 バックパックから武器を取りだして振るう弁慶さん。その手に握られた ブレードは正確な狙いと速さで、ロッテお姉ちゃんに刺さるんだよッ! 「きゃぅっ!?しまった、“ライドボード”に刺さってますの……!」 「掴まえた、逃がさない……!」 「それは、こっち側も同じですのっ!!」 『だめっ、弁慶離れて!』 「CMMランチャー“ギャッラルホルン”、フォイエルッ!!」 「……!?熱い、煙い……ッ!避けるの、面倒……!」 右の“ライドボード”を貫通されたロッテお姉ちゃんは、手元の 小型煙幕ミサイルを近距離で炸裂させて、距離を取ったんだよ。 でも貫かれた右肩のレーザーガンポッドは、機能停止してるね。 刺さっていた剣も、今の爆風で飛ばされて拾われちゃったもん。 ……最大の技を封じられて、ちょっとピンチなんだよ。でもッ! 「……なかなか手強いですの、ハンゾーさんもでしたけど」 「あの戦い、弁慶もしっかり見た。だから……勝つ!」 「そう簡単には、勝たせてあげませんのッ!!」 ──────戦う時は最期まで。それが“戦乙女の誇り”だよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/kontonpsw2/pages/398.html
神姫 完全統一世界独自種族。 貴族熱に悩まされていた貴族に神となったイスカイアが天使の身体を与えた存在。 肉体的には天使であり神族だが、魂は人のものである。 〈支配の力〉の代わり、天使の力であるヴァルキュリア能力を与えられている。 完全統一世界においての実質的な支配者。神の信任を受けて各地域を統治している。 元が貴族の為全体的に傲慢な者が多い。 大半は元貴族だが、統一王国成立後、ヴァルキリーから成った神姫もいる。 この世界においてヴァルキリーは神姫候補であり、騎士の中でも特別な待遇になる。 魔物データ 神姫typeA 魔物レベル22 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度30/34 弱点:命中力+1 先制値30 移動速度30/30(空中) 生命抵抗力34 精神抵抗力34 攻撃方法:魔剣 命中力27 打撃点2d+22 回避力26 防護点20 HP380 MP180 特殊能力: 〇統一神の威光 冒険者または魔物レベル15以下の存在に対する全ての行為判定に自動成功する。 〇複数宣言=2回 ▶神聖魔法15レベル/魔力21 〇💭魔法適正《マルチアクション》《ターゲッティング》《魔法収束》《魔法誘導》 《魔法拡大すべて》《ダブルキャスト》《バイオレントキャストⅡ》 レ魔力撃=+21 ▶▶△ヴァルキュリアレベル12 自身の仲間・配下を3体まで選び使役状態にできる。 使役状態のキャラクターは全ての判定の達成値が+6され、与えるダメージが+4される。 同時に戦闘中の判定は全て固定値を用いる。 この効果は神姫が気絶または消滅すると失われる。 ▶騎士を呼ぶ。 自身の配下の騎士を呼ぶ。 次のラウンドの自身の手番開始時に騎士1~3体が戦闘に参加する。 周囲に騎士がいない場合はこの能力を使用できない。 戦利品: 浄化の聖印(6900G/-)、 祝福された武器(14000G/黒白SS) 詳細: 統一神イスカイアに仕える神姫。 汎用的な性能の通常タイプで一般的な騎士や平民が目にする機会があるのはこれ。 神姫は「貴族」の魂に「天使」の身体を与えた存在。姫と呼ばれてるが性別はなく不老。 神に絶対の忠誠を誓っており、この世界の秩序を乱す反逆者を苛烈に狩る。 神姫typeB 魔物レベル24 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度32/36 弱点:命中力+1 先制値33 移動速度45/45(空中) 生命抵抗力37 精神抵抗力37 攻撃方法:魔剣 命中力32 打撃点2d+36 回避力30 防護点23 HP424 MP197 特殊能力: 〇統一神の威光 冒険者または魔物レベル15以下の存在に対する全ての行為判定に自動成功する。 〇複数宣言=2回 ▶真語魔法15レベル/魔力22 ▶神聖魔法15レベル/魔力22 〇💭魔法適正=すべて 💭高速詠唱 1回の主動作で魔法の行使が2回行えます。 この効果による魔法の行使は、魔力が4点低いものとして扱います。 〇守りの翼 自身が何らかの物理・魔法Dを受けたとき、MPを10点消費することで、 受けるダメージを20点軽減することができる。 この効果は1ラウンドに2回までしか使用できない。 戦利品: 浄化の聖印(6900G/-)、 祝福された武器(14000G/黒白SS) 詳細: 統一神イスカイアに仕える神姫のうち、魔法戦闘能力に優れたタイプ。 ヴァルキュリア能力を持たない代わり、個体としての性能が高く設定されている。 基本的に一般の人族蛮族の相手をすることは稀で、 高位竜クラスの幻獣や上位魔神などの討伐の際に出陣する。 神姫フレキ 魔物レベル22 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:敵対的 言語:魔法文明語、神紀文明語など 知名度30/34 弱点:命中力+1 先制値30 移動速度30/30(空中) 生命抵抗力34 精神抵抗力34 攻撃方法:魔剣 命中力22 打撃点2d+22 回避力22 防護点15 HP400 MP289 特殊能力: 〇統一神の威光 冒険者または魔物レベル15以下の存在に対する全ての行為判定に自動成功する。 〇複数宣言=2回 ▶真語・操霊・深智魔法17レベル/魔力24 真語・操霊・深智の各超越魔法を全て使用可。 〇💭魔法適正《マルチアクション》《ターゲッティング》《魔法収束》《魔法誘導》 《魔法拡大すべて》《ダブルキャスト》《バイオレントキャストⅡ》 〇レギオン支配=レベル22 貴格【攻撃陣形】【横一列攻撃陣形】【遠距離攻撃陣形】【射程延長】【魔撃の陣】 【一騎当千の陣】【魔力暴走の陣】【怒涛の奔走】 〇レギオン〈無辜なる死者たち〉=レベル17 戦力500 毒・病気・精神効果では戦力が減少しない。 身代わりによって減少する戦力-10。 身代わりを行った次の貴人の手番開始時、戦力50回復。(500は超えない) 詳細: 不正にレギオンを扱う神姫。 生前の名をフレキ・フェンディルといい、フェンディル王の数多くいる子の一人。 ジャーベルシュゼットの腹違いの姉、レーヴァンとは同腹の姉弟。 性格は典型的傲慢な貴族。平民を家畜と呼び、当然のように使い捨てる。 昔から奔放な弟とそりが合わなかったが、レーヴァンがジャーベルを庇った結果、 フェンディル王が倒れ国が滅びたことで強く憎悪するようになった。 神姫レーヴァン 至聖天 イスカイアが滅ぼした神々の、神としての力が集まったもの、「神骸珠」。 その神骸珠を持って生まれてきたヴァルキリーが神姫になった者が至聖天である。 (神骸珠を宿して生まれると親の種族に関わらずヴァルキリーになる) 神骸珠を持つと、その元となった神に応じた特別な力を行使できるようになる。 (プリーストであればその神の特殊神聖魔法が使える) 至聖天は神の力を宿すため、神姫たちの中でも上位の存在として扱われる。 なおその性質上、至聖天は元貴族ではない、若い神姫になる。 生まれつき滅びた神の力を宿す故か、性格や性質が神骸珠に影響を受ける場合も多い。 魔物データ 海掠の至聖天ベリアナ 魔物レベル25 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度33/37 弱点:命中力+1 先制値32 移動速度30/30(空中) 生命抵抗力38 精神抵抗力38 攻撃方法:魔剣 命中力31 打撃点2d+30 回避力28 防護点25 HP700 MP300 特殊能力: 〇統一神の威光 〇海掠の神骸珠 戦闘中自身の周囲半径30mが深さ50cmの水場になる。(足場ペナルティ発生) 水の影響によるあらゆるペナルティを無視でき、水の上を自由に移動できる。 海掠神エイリャークの特殊神聖魔法が使用可能になる。 ▶神聖魔法15レベル/魔力22 〇レ魔法適正=すべて レ属性魔力撃=ダメージ+22、水・氷属性化 レ全力攻撃Ⅲ、薙ぎ払いⅡ 神の指先の至聖天アルセーヌ 魔物レベル23 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度31/35 弱点:命中力+1 先制値35 移動速度40/40(空中) 生命抵抗力35 精神抵抗力35 攻撃方法:魔剣 命中力33 打撃点2d+24 回避力32 防護点20 HP650 MP270 特殊能力: 〇統一神の威光 〇神の指先の神骸珠 器用度Bを使用する判定の際、ダイスを振らず出目11として達成値を求める。 また神の指先ミルタバルの特殊神聖魔法が使用可能になる。 〇複数宣言=2回 ▶神聖魔法15レベル/魔力23 〇💭魔法適正《マルチアクション》《ターゲッティング》《魔法収束》《魔法誘導》 《魔法拡大すべて》《ダブルキャスト》《バイオレントキャストⅡ》 💭魔力撃=ダメージ+23 〇ヴァルキュリア この戦いにおいては神姫騎士部隊のダメージが+4点される。 〇至聖天のブレスレット 戦闘開始時、追加HP200を得る。(ホリブレ扱い) 月の至聖天ダイアナ 魔物レベル22 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度30/34 弱点:命中力+1 先制値25 移動速度30/30(空中) 生命抵抗力27 精神抵抗力27 攻撃方法:魔弓 命中力27 打撃点2d+22 回避力26 防護点20 HP680 MP280 特殊能力: 〇統一神の威光 〇月の神骸珠 戦闘中、自身の周囲100mを満月の夜に変更する。 夜の範囲内にいる、自身以外の冒険者・魔物レベルが15以上のキャラクターは一切の主動作が行えなくなる。 この効果は必中として扱う。また月神シーンの特殊神聖魔法が使用可能になる。 ▶神聖魔法15レベル/魔力21 ▶真語魔法15レベル/魔力21 〇💭魔法適正=すべて ○▶▶△ヴァルキュリアレベル13 自身の仲間・配下を3体まで選び使役状態にできる。 使役状態のキャラクターは全ての判定の達成値が+6され、与えるダメージが+4される。 同時に戦闘中の判定は全て固定値を用いる。この効果は神姫が気絶または消滅すると失われる。 ▶ラウンドシング・シャドウ この効果を使用した直後に使役中のキャラクターの主動作が1回増えます。 ただしこの効果を受けた対象は次のラウンドの自身の手番で主動作を行えません。 〇至聖天のブレスレット 戦闘開始時、追加HP200を得る。(ホリブレ扱い) ○魔弓《ターゲッティング》&《鷹の目》& この魔物の攻撃は射程50mの〈ボウ〉による射撃攻撃として扱う。(魔法の武器扱い) ○▶月神のヴェール 不利な精神効果属性を受けない。 また射程接触で主動作で対象に触れることで達成値の比べあいの必要なく精神効果属性を解除できる。 戦利品: 至聖天のブレスレット(非売品)、月神のヴェール(非売品、彷徨の塔掲載アイテム) 詳細: 月神シーンの神骸珠を受け継ぐ至聖天。 他の至聖天に比べると素の戦闘力はあまり高くない(それでも一般神姫程度はあるが)。 ただし月の神骸珠の効果が非常に強力で、周囲の高レベルの存在に強い負荷をかける。 特に15レベル以上の力持つ者はまともに行動することも叶わない。 これは神姫どころか同じ至聖天クラスでも同様である。 そのため彼女は他の神姫とは行動せず、英霊となった騎士と共に行動している。 神骸珠の効果と統一神の威光の効果が同時に存在するため、倒すのは非常に困難。 腐敗のジーブリシス 魔物レベル25 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度33/37 弱点:命中力+1 先制値32 移動速度30/30(空中) 生命抵抗力38 精神抵抗力38 攻撃方法:魔剣 命中力31 打撃点2d+25 回避力28 防護点25 HP700 MP300 特殊能力: 〇統一神の威光 〇腐敗の神骸珠 自身が発生させた毒・病気属性の効果は無効化されない。 自身が近接攻撃命中させたとき、Dに関わらずその対象に2d+20点毒かつ病気属性魔法D。必中。 腐敗の女神ブラグザバスの特殊神聖魔法が使用可能になる。 ▶神聖魔法15レベル/魔力21 〇💭魔法適正=すべて ▶4回攻撃 〇至聖天のブレスレット 戦闘開始時、追加HP200を得る。(ホリブレ扱い) 血浴みの至聖天バートゥリ 魔物レベル22 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度30/34 弱点:命中力+1 先制値25 移動速度30/30(空中) 生命抵抗力27 精神抵抗力27 攻撃方法:魔剣 命中力27 打撃点2d+22 回避力26 防護点20 HP680 MP280 特殊能力: 〇統一神の威光 〇血浴みの神骸珠 戦闘中、自分以外のキャラクターがなんらかのダメージを受けたとき、適用Dと同じ値だけHPが回復する。 血浴みの神ニバセブスの特殊神聖魔法が使用可能になる。 〇💭魔法適正=すべて ▶真語・神聖魔法15レベル/魔力23 〇ヴァルキュリア この戦いにおいては神敵撃滅軍のダメージが+4点される。 〇至聖天のブレスレット 戦闘開始時、追加HP200を得る。(ホリブレ扱い) 策謀の至聖天ゴーレ 魔物レベル23 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度31/35 弱点:命中力+1 先制値35 移動速度40/40(空中) 生命抵抗力35 精神抵抗力35 攻撃方法:魔剣 命中力33 打撃点2d+24 回避力32 防護点20 HP650 MP270 特殊能力: 〇統一神の威光 〇策謀の神骸珠 自身が近接攻撃・遠隔攻撃・魔法や特殊能力の対象になった時、1ラウンドに1度だけ、 同じ座標に存在するいずれかの味方キャラクターに対象を変更することができる。 生死判定発生時、1日に1度だけ判定に自動成功する。 (範囲には巻き込まれる。魔法制御などで対象に選ばれた際は効果有効) また策謀神ワギル=イシナニの特殊神聖魔法が使用可能になる。 〇複数宣言=2回 ▶神聖魔法15レベル/魔力23 〇💭魔法適正《マルチアクション》《ターゲッティング》《魔法収束》《魔法誘導》《魔法制御》 《魔法拡大すべて》《ダブルキャスト》《バイオレントキャストⅡ》 💭魔力撃=ダメージ+23 〇ヴァルキュリア この戦いにおいては神敵撃滅軍の防護点および生命・精神抵抗力が+4点される。 〇至聖天のブレスレット 戦闘開始時、追加HP200を得る。(ホリブレ扱い) 騎士のエイジス 魔物レベル25 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度33/37 弱点:命中力+1 先制値34 移動速度30/30(空中) 生命抵抗力38 精神抵抗力38 攻撃方法:魔剣 命中力32 打撃点2d+33 回避力28 防護点30 HP800 MP250 特殊能力: 〇統一神の威光 〇騎士の神骸珠 《かばうⅡ》使用時、効果の範囲が全エリアかつ回数無制限になり、魔法に対しても効果が有効になる。 またかばうの効果が発動時、自動で全てのダメージが半減される。適用D 騎士神ザイアの特殊神聖魔法が使用可能になる。 ▶神聖魔法15レベル/魔力20 💭魔法適正《マルチアクション》《ターゲッティング》《魔法収束》《魔法誘導》《魔法制御》 《魔法拡大すべて》 💭《かばうⅡ》&〇《ガーディアンⅡ》&〇《無人の盾》 💭《全力攻撃Ⅱ》《魔力撃》=D+20 〇ヴァルキュリア この戦いにおいてはレルーラン防衛軍の防護点+6点される。 〇至聖天のブレスレット 戦闘開始時、追加HP200を得る。(ホリブレ扱い) 慈雨の至聖天シュツルム 魔物レベル23 種族:神族 知能:高い 知覚:五感&魔法 反応:神の命令次第 言語:魔法文明語、神紀文明語、その他 知名度31/35 弱点:命中力+1 先制値32 移動速度40/40(空中) 生命抵抗力35 精神抵抗力35 攻撃方法:神殺槍 命中力33 打撃点2d+28 回避力30 防護点20 HP650 MP370 特殊能力: 〇統一神の威光 〇慈雨の神骸珠 雷属性のダメージを無効化します。(Dのみ無効でそれ以外の効果は有効です) 戦闘開始時、自動で【コントロール・ウェザー】の効果が発動します。 戦闘中、手番開始時に【サンダー・ウェポン】の効果が自動で掛かります。 また慈雨神フェトルの特殊神聖魔法が使用可能になる。 ▶神聖魔法15レベル/魔力25 〇💭魔法適正すべて 〇魔投連携 《マルチアクション》宣言時、魔法と投擲攻撃を組み合わせることができるようになります。 〇神殺槍(投擲)/必中 射程20mで槍による投擲攻撃を行います。この投擲攻撃は必中になります。 ダメージの算出は打撃点を用い、命中した対象の「冒険者or魔物レベル」点ダメージが増加します。 〇ヴァルキュリア この戦いにおいてはレルーラン防衛軍が受ける魔法Dが-4点される。 〇至聖天のブレスレット 戦闘開始時、追加HP200を得る。(ホリブレ扱い) 伝令のツウィット 始祖のミカエル
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/972.html
剣の目覚めは、未だ遠く(後半) 奇襲とも言える一撃を胸に喰らい、アルマのSSSは機能を発揮する間も 与えられずに脱落した。一応戦績を重ね、サードリーグとは言えど上位に 上がり始めてきたアルマなのだが、ここまで手酷い先制攻撃を受けたのは 初めてだ……よもやアルマよ、魔剣に気を取られているのではないか!? 「どうした、剣を抜かぬのか」 「うぅ……エルテリア、まだダメなんですか!?」 「両脇のはさておき、腰のは飾りか……下らぬッ!!」 「あっ……速いっ!?“アイゼンナーゲル”……きゃああっ!」 奴の、兎型神姫の拳を受けるな!……そう叫ぶ間もなく、胸に装着した “アイゼンナーゲル”が打ち砕かれる。黒き翼……“フリューゲル”の 防御機能が死んだ瞬間だった。咄嗟にアルマは、背部の“チーグル”を 展開し、鋼の翼をもぎ取って炎の剣……“ヒッツェメッサー”と為す。 「いけないですの、アルマちゃん!その相手にチーグルは!?」 「己の浅はかさに気付いた所で……遅いわぁッ!!」 「うく……うああああっ!?痛……そんな、チーグルの隙間に」 「……純正ストラーフタイプの弱点が、そのまんま出てるんだよ」 “チーグル”の長大なリーチは、胴がガラ空きになる弱点でもある故に 近接格闘型とは相性の悪い装備なのだが、今のアルマは動転している。 普段ならば使いこなせる筈の超複合武装なのに……正確に使えない!! 最早間違いない。頻繁に動く視線も、魔剣・エルテリアに向いている。 「アルマめ……魔剣が未だ反応しない事に、動揺してしまったのか」 「く……負ける、わけには……ッ」 「その闘志だけは認めるが、雑念が多すぎるな……ふっ!!」 「ぅぁ──────ッ!?」 頭上に輝く天使の環“フライアーシュヴェルト”も展開し刃と為す…… が、そうして産まれたショーテルも、ティールの“隻腕”に砕かれる。 そう。この兎型神姫、左腕にブースターと電磁破砕ナックルを搭載した 格闘特化型なのだ。そのセンスは凄まじい……だが、アルマがここまで 完膚無きまでにやられるのは、やはり魔剣への注意が原因と言えるな。 「……あたしは、退く訳には……ッ……せぁぁぁーっ!!」 「もういい、止めるのだアルマッ!!?」 「その雑念を振り払え……そうでなければ、勝てぬぞッ!!」 「──────!?」 私がギブアップ信号を発したのと、ティールの腕に胸を貫かれたアルマが バトル機能を停止するのは、ほぼ同時だった……完全にKO負けである。 最後の武器として構えたニードルライフルが、虚しく空に落ちていった。 そして殺戮の虚構は解除され、アルマがゲートを力無く登って出てくる。 「アルマ……お前、どうしてもエルテリアに認めてもらいたかったのか」 「はい。ごめんなさい、マイスター……でもこれで、色々分かりました」 「……その魔剣が欲する何かを、掴んだのかな?アルマお姉ちゃん……」 「うん、ハッキリと分かったんですクララちゃん。これで次は、大丈夫」 流石に苦痛と敗戦のショックは大きく、彼女に笑顔はない。だが死地に 得る“何か”があるならば、この痛みとて決して無駄ではないだろう。 とは言え、今すぐ“次”をさせる訳には行かない。負担が大きいしな。 「じゃあ残念会って事で、皆でおやつでも食べにいきますの~♪ね?」 「ろ、ロッテちゃん?じゃない、葵ちゃん?……有り難うございます」 暗い雰囲気を撃ち破ったのは、葵だった。満面の笑顔でアルマを抱いて、 “残念会”を提唱したのだ。流石ロッテ、分かっているな……有り難い。 「礼など構わぬ。成長出来る時なのだ、これも楽しもうではないか!」 「何処に往くか、帰り支度しながら決めるんだもん。さ、お姉ちゃん」 「……ぐす、本当に皆……有り難うございます。あたし、あたしっ!」 感極まったアルマが、葵の胸元で泣き出してしまう。私の胸中にも、少々 来る物がある故、葵とサンドイッチにする様にしてアルマを抱きしめる。 そして私の肩から降りたクララが、アルマを抱き撫で続ける……傍目には 私と葵が抱き合って泣いている様に見えるかもしれない。だが、構わぬ! 「……ふん。雑念は解けたか、戦乙女の一人よ……アルマと言ったか?」 「む?貴様は先程のヴァッフェバニー、ティールか……妹に、何用だ!」 そうしていると、帰り支度を終えた“ティール”が私達に話しかける。 オーナーの方は凡庸な男だ……取り立てて注目するまでもないだろう。 だが、彼女は違う。冷徹な瞳とアンバランスな隻腕が印象的な神姫は、 アルマの様子をつぶさに観察している。侮蔑とは違う戦神の目で、だ。 「……はい、貴方の一撃で目が覚めました。このお礼は、勝つ事でッ」 「いい返事だ。私を倒さねば、セカンドへ上がる事は無理だと思え?」 「は、はいっ……近い内必ず、ティールさんを倒してみせますよっ!」 その言葉に満足したのか、何も言わずにティールとそのオーナーは去る。 奥手なアルマが、ここまでハッキリと宣言するという事は……恐らくは、 本当に自分がどうあるべきか、見えたと言う事なのだろう。良い事だな。 「さ。わたし達も帰り支度を整えて、早く遊びに行きますの~っ♪」 「葵お姉ちゃんは、何時でも前向きで明るいんだよ。美徳なのかな」 「きっとそうなのだろう、私とても……アルマにもクララにもな!」 「ふふ……助かります、本当に。武装脱ぐから待ってて下さいね?」 ──────見出した物は、なんだろうね……? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2732.html
意識が徐々に鮮明になっていく。どうやらまた負けてしまったらしい。 だが、不思議と嫌な感じはしなかった。全力、いや死力を尽して負けたのだから、逆に清々しい気分だ。 筐体の中から出ると、目の前に黒い影があった。顔をあげると、そこにはさっきまで対峙していた無表情がある。 「貴女方との試合、とてもよかったです。私も、楽しかった。こんな気持ちは久しぶりです」 静さんは右手を差し出してくる。私も右手を出し、無言のまま握手した。その手からは確かな暖かさが伝わってきた。 「我が主も、同じ気持ちです。主が他者との試合を楽しむのは、本当に希なことなのです」 見ると、樹羽も宮下さんと握手していた。宮下さんの表情はとても明るい。とても自然に微笑んでいる。樹羽はと言うと、私と同じでちょっと上の空と言う感じだ。 「あの、私も楽しかったです! 負けちゃったけど、すごく、すごく楽しかったです!」 そんな私を見て静さんは、 「私も、貴女方と勝負出来たこと、本当に感謝しています。本当にありがとうございました」 ほんの少し、笑ってくれた。 「静、いくぞ」 「はい、我が主」 手が離れる。宮下さんの一言で、静さんは宮下さんのコートのポケットの中へ戻っていった。繋いでいた手には、まだ暖かさが残っている気がする。 私は嬉しかった。樹羽の役に立てたことはもちろん、樹羽とともに全力を出せたことが何より嬉しい。神姫冥利に尽きると言うものだ。 「樹羽、宮下さんと何話したの?」 「バトルの感想。それと最後の武器の解説」 「最後の武器?」 あのチートクラスの刀の事だろうか? 確か、エウロスもストームもトルネードもやられちゃった刀。あれがどんな理屈だったのか、確かに気になる。パラメータをいじったとしか思えないが。 「どんな仕掛けだったの?」 「一言で言うと、単分子カッターに近い物」 「……はい?」 「宮下さんは斬鉄剣って言ってた」 つまり、刃の部分の面積が分子一個分だと言うことだろうか? それは、反則級なのではないだろうか? 「あくまでそれっぽいだけ。実際に単分子カッターじゃなくて近い物。切味が異常なだけだけどコストも高いんだって。バリアがあればダメージはほとんどないって言ってた」 仮にそうだとしても、まだ疑問があった。最後の最後、あのときトルネードが砕けたが、あれはどうなのだろう。切味が異常と言うだけで説明出来ない。 「トルネードに当たった三回とも同じ場所に当てたって言ってた」 つまりそれは、樹羽の一撃を受け止めた時や、逆に一撃を加えた時。果ては最後の一撃すら、同じ箇所に当てた、と言うことか? 不可能ではない。最初の二回で僅かに刀身に負荷を加え、最後の一撃でトドメを差したと、そう言うことか。 「私達、よく頑張ったんだね」 「うん、頑張った」 私と樹羽は、宮下さんが去っていった方向を眺めた。そこには既に人の雑踏しかなく、黒いコート姿は見ることが出来なかった。 さて、今回は連続でバトルしてみようと言う樹羽の提案で、私も用意しようとした時、樹羽が声をかけられた。 「終わったか、奏萩」 「東雲くん?」 それは以前戦った東雲榊さんだった。ブイネックのシャツにジーンズ、肩掛けのバッグをかけている。 「対戦?」 「いや、悪いが今回はそうじゃない。まぁ当初はそのつもりだったんだけどな、その、なんだ……」 どうにも歯切れが悪い。何かを躊躇っているように見えた。 「何かあったんですか?」 「あ、まぁ、そうだな、あった。その、秋已のことだ」 「華凛の?」 そう言えば、華凛さんの姿が見えない。てっきりバトルを見ているものだと思ったが。 「ありのままあった事を話すとな、俺がゲーセンに来たときに突然倒れたんだ。何を言ってるかわからないかも知れないが俺にもわからなかtt……って、奏萩?」 榊さんが気が付くと、すでにそこには樹羽の姿はなかった。 「倒れた、の辺りで走って行っちゃいました……たぶん休憩室ですね」 「あれ? 俺、秋已が休憩室にいるって言ったっけ?」 「前に樹羽が倒れた時も、休憩室に運ばれましたから、華凛さんもそこにいるって考えたんじゃないですか?」 そこまで一瞬でたどり着き、行動する。樹羽は口数は少ないけど頭の回転が遅い訳ではない。バトルの時、流れてくる思考はとても早く、そして簡潔にまとめられていく。 樹羽って実は天才タイプなんじゃないだろうか? 「確か、シリアだったっけか? 俺たちも行こうぜ」 「はい、ありがとうございます」 榊さんの手を回して彼のバッグに入れてもらう。そのまま運んでいただける形になる。 「この間のバトル、ありがとな。おかげでシンリーが満足いく曲が作れたって喜んでたぞ」 三日程前のバトルを思い出す。途中から調子が戻ったが、あのとき曲のイメージが固まったとのこと。 「そのシンリーさんは?」 「あんたの真下で新曲の下準備してるよ」 ああ、下から聞こえてくるよくわからないボイスはシンリーさんのものだったのか。ブツブツ何か言っているが、音量を絞っているのか、よく聞こえない。 話をしている内に休憩室の前に着く。私はバッグに入ったままその扉をくぐった。 「華凛っ!」 休憩室の扉が開くと、私は転がり込む勢いで中に入った。華凛はソファで眠っていた。その寝顔は少し安らかそうで、ちょっと安心した。 「安心してください、たぶんただの貧血です」 声のする方に目をやると、楓さんが立っていた。ハチマキは取られていて、物腰が柔らかい。 「楓さんが看病してくれたの?」 「看病、と言ってもただ見てるだけでしたが」 「ま、こういうのは後は本人次第さ。もうすぐ目ぇ覚ますはずだよ」 ソファの上で華凛の側にいる紅葉がそう言ってくれる。それを聞いてより安心した。紅葉が楓さんのコートのポケットに収まり、楓さんは再びハチマキを頭に巻く。すると、一秒と経たない内に楓さんを取り巻く空気が変わった。 「あたしは表に車回してくるよ。その子が気が付いたら、あたしが車で近くの病院に運ぶから」 「ありがとうございます」 「いいって、あたしが好きでやってることだ」 楓さんが休憩室を出る際、彼女は思い出したようにポケットから百円玉を取りだし、指でこちらに弾いてきた。それをどうにかキャッチする。 「言い忘れてた。目を覚ましたら何か温かい飲み物飲ませてやりな。応急処置みたいなもんだ」 渡された百円玉に関してこちらが何か言う前に、楓さんは休憩室から出ていってしまった。今度会った時にでもちゃんと返そう。借りっぱなしは良くない。 「樹羽……」 その時、蚊の鳴くような声が後ろからした。振り返ると華凛が首だけをこちらに向けていた。 「華凛、大丈夫?」 「少し、ダルいわね……」 華凛が体を起こそうとするのを私は止めた。まだ動かない方がいい。 「何か温かい飲み物を飲むといいんだって。何がいい?」 「コーヒーでいいわ」 私は楓さんがくれた百円玉を自販機に投入し、コーヒーのパネルをタッチした。ガコン、と缶が取り出し口に落下する。中から缶を取り出して、自販機の「あったかい」は当てにならないと今初めて知った。これじゃあ確実に「熱い」分類される。 私はその熱い缶を我慢してなんとか持ち上げ、華凛の元まで運んだ。 華凛はなんとか体を起こし、それを難なく受け取ると容易く缶の蓋を開けた。それを口に運ぶ。順調に缶の中身を飲み干していき、あっさりと中身が空になってしまった。熱くないのだろうか? 「ありがと。おかげでなんか楽になったわ」 「熱くなかった?」 「そう? 飲めない程じゃなかったと思うんだけど」 「いんや、十分おかしいだろ」 気が付くと、入り口に東雲くんが立っていた。バッグからシリアが顔を覗かせている。しまった、シリアのことを完全に忘れていた。 「あらそう? 飲めるでしょこんぐらい」 「買ったばかりの熱々のコーヒーを口ん中入れたら、普通火傷すっぞ」 「事実してないじゃない」 「そりゃまぁ、そうだが……」 東雲くんはどうにも腑に落ちないと言った感じだ。そんな彼に対し、華凛が疑問を投げ掛ける。 「それよりなんでアンタがいんの?」 「たまたまゲーセンに来てみたら、目の前でお前に倒れられたんだよ」 「あ、じゃあアンタに運ばれたの? あたし」 何やらショックを受けているようなリアクション。しかし東雲くんは手を振った。 「いや、楓って人が運んでくれた。知り合いだろ、お前ら」 「あぁ、あの人。いたんだ」 「さっき車を回してくるって言ってた」 華凛が何やら安心した素振りを見せる。あれ? 私が倒れた時は誰に運んでもらったんだろう? 「そういえば樹羽、バトルはどうだった?」 華凛が思い出したように尋ねてくる。私は少し薄く笑いながら言った。 「……負けた」 「そっか……」 「でも、悔しくなかった」 本気で対峙して、それで負けた。不思議と納得がいくバトルだったと自分では思っている。昔、「大事なのは本気で物事に取り組むこと。結果は後から付いてくるものだ」と言う言葉を何かの本で見たことがある。当時はその言葉の意味はわからなかったが、今回のバトルでよくわかった。 本気でバトルすること、そのことに意味があるんだ、と。 その時、休憩室のドアが開いた。楓さんだった。車の鍵らしき物を指でくるくると回しながら入ってくる。 「気が付いたみたいだね。気分はどうだい?」 「少しふらふらしますけど、まぁなんとか立てます」 「そうか、なら近くの病院に送るよ。この近くにあたしの友達の御両親が経営してるところがあるんだ」 華凛は最初渋ったが、私が説得して楓さんに送ってもらうことにした。さすがに一日で体調を戻すことは出来なかったのだろう。それどころか、華凛はきっと無理して今日来たはずだ。体調も悪化する。 「明日は一日ゆっくりして」 「でも……」 「ちゃんとバトルはする」 華凛はすごく悩んだ末、了承した。なんだか悩んでいるときの華凛の顔は、どこか悲しみが溢れているように感じられたのは、気のせいだろうか。 「……わかったわ。後でシリアに結果聞くからね」 「バッチグー」 華凛は楓さんに連れられて休憩室を出ていった。後に残されたのは、私と東雲くん。それと終始黙りっぱなしのシリアだけだった。 「いや、なんていうか、やっぱり話しづらいって言うかさ……その、ねぇ?」 そんなものだろうか。私の場合そもそも話さないし、そう言った場面に遭遇する機会も少なかったからよくわからない。 「奏萩はどうするんだ?」 「東雲くんは?」 「俺はもう帰るよ。シンリーがまともに戦える状態じゃないからな」 シリアによると、また作曲活動に入ったらしい。確かに戦えそうにないかもしれない。 「私も帰る」 「そっか、じゃあ送っていく。まだ日が高いとはいえ、最近何かと物騒だからな」 その提案は魅力的だった。事実一度不良にからまれている身からすれば、二人で帰れることはとても安心できることだ。 私は東雲くんからシリアを受け取ると、三人で休憩室を後にした。 「…………」 「…………」 「……(むぅ)」 帰り道、私は樹羽のポーチに収まりながら一言も喋れないでいた。いや、私達はと言った方が正しい。 人通りが少ない住宅街に入り、回りの喧騒が無くなると、この無駄に重い空気が余計に如実になる。樹羽は終始うつ向きっぱなしだし、榊さんはなんだかそわそわとして落ち着きがない。 私はそんな空気の真っ只中にいた。正直勘弁して欲しい。 私は自分の内で一つ決心し、話をしてみた。 「さ、榊さんはこの辺に住んでるんでしゅか?」 どもった上に完全に噛んだ。物凄く気まずくなり、ポーチの中に埋まりたくなる。むしろ埋めて、誰か埋めて。 「あ、ああ、いや、少しだけ遠い。9年前くらいに一度だけ引っ越してきたことあったんだがな。それ以降この街にはちょくちょく遊びに来てるぐらいだ」 「そ、そうなんですか。じゃあ小学校はこの辺なんですね」 気を取り直して会話を続行する。樹羽、ちょっとはサポート入れてよ、お願いだから。 「あぁ、小学一年の頃に引っ越してきたから、岬宮(みさきのみや)小学校、に……」 そこで榊さんが不意に立ち止まった。瞳孔が開き、口がパクパクとして、何かに気が付いたか、気付きかけているような表情だ。樹羽もそれに気付いて、榊さんの様子を見た。 「東雲くん?」 「かなはぎ……みきは……? まさか、いやそんな……」 榊さんの口からポツリポツリと、漏れるように言葉が溢れる。 そして一頻り考え抜いた後、こんなことを言った。 「もしかしたら俺は昔、お前に会ってるかもしれない」 「え……?」 そのセリフに対し、樹羽は首を傾げた。榊さんはそんな樹羽の様子を見ながら、次の質問をする。 「覚えてないか? 小学一年生の頃、お前のクラスに転校生が来たはずだ。名前は……」 「しののめ、さかき……」 そこで樹羽がハッとした様に立ちすくむ。信じられないものを見るように。 「あの時の、男の子」 「ああ! ったく、なんで一目見て気付かなかったんだ。よりにもよってお前のこと……!」 どうやら二人は過去に面識があったらしい。昔のことを一切知らない私はおもいっきり蚊帳の外だ。多分二人の中で私の存在はもうないだろう。 「しの……榊くん、私も気付かなかったから、お互い様」 「だな。悪いな、樹羽」 「そう呼ばれるの、懐かしい」 「俺も、懐かしい」 いつの間にか名前で呼び合うようになり、さっきまで重々しかった空気が、何故かあっさり軽くなるのを感じた。私、先帰っていいかな? 「榊くん……」 「樹羽……」 何故そこで見つめあっているのだろう。今にもキスとかしちゃいそうな空気だ。ちゃんと私にもわかるように説明して欲しい。 と、その時だった。 「よっしゃー! 新曲かんせーい!! って……ありゃ?」 榊さんのバッグからシンリーさんが満面の笑みで飛び出した。その時二人は弾かれたように離れ、道のはじっこに分かれる。 「マスター、バトルは?」 「お、お前が曲作りに熱中しちまったから帰るんだよ!」 「えー、まだ昼過ぎたあたりじゃん! また戻ってバトルしようよー!」 「わかった、わかったよ! 樹羽、悪いが俺は戻るな」 「う、うん。わかった」 だだをこね始めたシンリーさんにせがまれ、榊さんは来た道を戻っていった。樹羽は少し残念そうにしている。理由はわからないこちらとしては、あまり面白くない。 「樹羽、榊さんと昔会ったことあるの?」 樹羽はようやく私の存在を思い出したのか、私を見た後、どこか遠い場所を見るような眼になって空を見上げた。 「うん、私が小学生で、まだ私の性格も明るかった時期に……」 楽しかった夏休みが終りを告げ、私たちは熱い日差しな中、元気よく学校に向かっていた。プールなどで度々会っていたが、学校で友達と遊ぶことが何より楽しかったあの時、彼がやって来た。 彼はおどおどした感じで自分の名前を言った。 「し、しののめさかきです……よろしくおねがいします」 名字も変わっていれば、名前も変わっていた。よく言えば趣きがある、悪く言えば、古臭い。そんな名前だった。 小学生だった私達は、いや、クラスの皆は、こぞって彼をいじめた。小学生故の照れ隠しか、はたまた冗談のつもりか。たぶん後者だったのだろう。でも、幼かった私の目には、それは悪質ないじめにしか見えなかった。彼が泣き始めた時、気付いたら私は彼らの前に立ち塞がっていた。 「いじめちゃだめ」 彼らは私が注意してもやめようとはしなかった。むしろムキになって私までいじめにかかった。 始めは気にしていなかった。耐えられた、その頃は。 私は転校してきた彼の友達になってあげた。彼は最初こそよそよそしかったが、すぐに打ち解けた。 でも気付いたら仲がよかった女の子たちからもいじめを受けていた。みんなはきっと遊び半分だっただろう。しかしこの頃になって私の中の何かがグラグラと揺れ始めていた。 そんな中、私の中で彼の存在は支えに変わっていた。支えになっていたつもりが、いつの間にか支えになってもらっていた。 その時私は、初めて人を好きになると言う感情を覚えた。それは彼も同じで、彼も私のことを好きだと言ってくれた。今でも覚えてる。とても嬉しかった。 だけど、あの日がやってくる。 父の会社があっけなく倒産し、我が家に暗い影が差した。原因は部下の裏切り行為。信用していた部下が、大型社と手を組んで父の会社を潰しにかかったのだ。父の会社は小さいながらも功績を残していて、信頼と安全を第一とした職場だったと聞く。それに目をつけた大型社は、父の会社に合併を申し出た。 しかし、父はそれを断った。父は一人で会社を作り、そして経営していくことを夢見ていた。そして軌道に乗り始めた時期に合併の話を持ち出された。父はそこに、口では言い現せない何かを感じたと言う。 この会社の目的は合併ではなく吸収だ、と。 今から考えたら、大型社が小型社と合併することはまずない。良い条件の元、子会社にするのが普通だ。それをいきなり合併とは、裏があると睨むのも当然と言えば当然だ。 だが大型社は、合併を断った父の会社を裏から潰した。父は自分を責め、自殺しようとさえしたらしい。 そんな父の姿を、私は近くで見ていた。信用されていた人に裏切られる恐怖。私はそんなことに耐えられなかった。 それは私の学校で既に手遅れだった。誰それ構わず、理由もなくいじめに遭う。仲のよかった女の子たちをはじめ、友達だと思っていたクラスのみんなが、私の姿を見ただけでいじめに来る。それ以外の気弱そうな人は私のことを無視していた。自分が巻き込まれたくないからだろう。だが、その無視がある意味一番堪えたのもまた事実だ。 それでも私には彼の存在があった。幼かったが、互いに支え合える存在。学校に行けば会える、そう思っていた。 「でも彼は既に転校した後だった。ご両親の仕事の都合で、急にまた引っ越すことになったんだって」 「…………」 「私は支えを失った。さらにそこにいじめが加わって、私の中の何かが完全に壊れたような気がした。私が前みたいになったのは、その頃から」 樹羽が話をし終えたのは、家についてしばらくしてだった。 樹羽が小学生だった頃は、2033年。神姫はもう発売されている。私と言う個体はずっと後に生まれたけど、その時、樹羽の側に神姫がいてくれたらと、そう思わずにはいられなかった。 「ごめん、榊くんの話だったのに、私自分のことばっかり……」 「ううん、榊さんのこともわかったし、樹羽のこともわかった。だから、私嬉しい」 「嬉しい?」 「なんかさ、樹羽のこと、あんまりよく知らなかったかもしれないんだけど、今まで樹羽の本当の神姫に成れてなかったような、そんな気がしてたんだ。でも、今日は樹羽のこといっぱい知れたから、やっと本当の神姫に成れたかなって感じがするの。だから嬉しい」 「シリア……」 「それに……」 それに樹羽はもう一人じゃない。 「私は、絶対に樹羽から離れないから」 私は樹羽を裏切ったりなんかしない。私はとても無力な存在だけど、いつまでも側にいてあげることが出来る。私だけじゃない。樹羽は沢山の人と繋がってる。 「華凛さんも仁さんも、絵美ちゃんも榊さんも楓さんも、宮下さんや長谷川さんだっている。大丈夫、樹羽はみんなに愛されてる」 誰も樹羽を悲しませるようなことはしない。だから、樹羽はもう一人にならない。 「……ありがとう、シリア」 その時になって初めて、私はとても恥ずかしいことを言っているのに気が付いた。 「えと、うん、どういたしまして……」 私は樹羽にお礼を言われてうつ向いていた。 だって、顔は真っ赤だろうから。 「よかったな、軽い貧血で」 病院からの帰り道、楓さんの車に揺られながら、私は人で賑わっている街を眺めていた。 まるでそこに存在しているだけのような人混み。同じことを繰り返す人形のような人の波。ただただラインに乗って動いているようにしか見えない車の列。そんな静止画みたいな世界を、あたしは車に据え付けられた窓から眺めていた。 「まだ気分が悪いのか?」 私の様子を見て、紅葉が心配そうに声をかけてくる。それにあたしは極力明るい声で答えた。 「いや、大丈夫。一日寝てれば動けるようになるわよ」 その言葉に嘘はない。多分、一日中寝ていれば、一日くらい動けるようになる。そうでなければ、こっちが困ってしまう。 ただでさえ樹羽と一緒にいたいのに、ただ寝ているだけなんてやるせないことこの上ない。 「あんた、なんであの子にそんなに付き合ってるんだい?」 赤信号で車が止まった時に、ふと楓さんが聞いてきた。 「あんたが樹羽ちゃんにかける思いって言うのかな、そういうのが、なんか異常に感じられたんだ。なんであんたはそんなに樹羽ちゃんにこだわるんだい?」 それはあたしにとって、愚問とも言える質問だった。まぁ、あたしの今の状況を知らないとそういうことを思われたりするのは、この際仕方ないと諦めるけど。 「樹羽は、あたしが今ここで生きてる意味だから」 楓さんの問いに、あたしはそう答えた。いきなりこんなことを言われても、訳がわからないだろう。言ってみて、あたしは自分で吹きそうになった。 「それは、命の恩人ってことかい?」 「命の恩人、か。そうなったら嬉しいですね」 二人は余計に混乱している。それで別に構わない。初めから教える気などないのだから。 (そうよね、むしろ良い機会よ) 改めて考えてみると、あたしの行動理由が途中から変わっていたような気がする。そうだ、第一段階はもう済んだのだから、第二段階に進んでもいい頃合いだ。危ない、このまま行ったらあたしは樹羽にずっとついて回るところだった。ストーカー容疑で逮捕とか冗談ではない。 それほどまでに樹羽の進化は目覚ましかった。目を離せない程に。 (なら、明日はゆっくり休みましょ) 会えないのは辛いけど、なにより樹羽のためだ。シリアが一緒にいるし、大丈夫だろう。あたしがいなくても大丈夫なように、明日は一切介入しない。 ちょっと遅すぎたかもしれない。と言うか遅すぎだ。そう言えば後一日しかないんだった。 (ばっかだなぁ、あたし。これじゃ樹羽ぐずるでしょ絶対) 最悪、ちょっときつく言わなければいけないかもしれない。 樹羽は強い。だから大丈夫。そう自分に言い聞かせてあたしは座席にもたれて目を閉じた。 第十話の2へ 第十一話の1へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/microm/pages/12.html
Wikiについて wikiって何? 誰でも編集可能なHPです。 基本的に何でも編集していいですが、micromに関係ないことをするのはだめです。 編集方法 ページ上部の[編集]をクリックして出てきた欄の[このページを編集]をクリックして訂正したいことを書き込み、ページを保存を押してください。 守るべきマナー wikiはたくさんの人が利用する物ですから、人が見て不快になる事を書き込んだりするのはやめましょう。 又、荒らしなども編集が面倒なのでやめてください。 守れない方は帰ってください。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/398.html
前へ 先頭ページへ アタシは走った。 今まで生きてきた中で一番じゃないかと思えるくらいに走った。 腕の中には冷たい金属の質感しか持たないトロンベが眠っている。 速く何とかしないと、大変な事になる。 そんな気がしていた。 だから、アタシは走った。 ホビーショップ・エルゴに向かって。 ここからエルゴまでは1km弱。 本気で走れば5分で着ける。 だからアタシは本気を超えて走った。 雨がますます強くなる中、アタシは走った。 身体中に雨の水滴が叩きつけられる。 それは痛みを、冷たさを伴っている。 けど、トロンベはそれ以上のものを味わった。 この程度で音をあげる資格は、アタシにはない。 だから、ひたすら走った。 住宅街を横切り、繁華街を横切り、ひたすらに走った。 エルゴの看板が見えてきた。 たった1kmを走りぬいただけなのに、アタシの身体は疲れ切っていた。 足は棒のようで何の感覚もない。 身体は重く、まるで鉛を背負っているよう。 そして、転んだ。 エルゴはもうすぐそこに見えているのに。 アタシは立ち上がろうとする。 けど、身体に力が入らない。 意識が朦朧とする。 ゴメンね、トロンベ。 アタシ、貴女に謝りたかったのに。 貴女ともう一度お話したかったのに。 もう一度……。 夢を見ていたようだ。 アタシはトロンベと布団の中でずっとお喋りしていた。 学校であったこと、テレビで見たこと、ニュースで見たこと。 何でも話した。 何でも良かった。 トロンベはそれを聞いて喜んでくれた。 早く外の世界を見てみたいと言ってくれた。 そんなトロンベを胸に抱き寄せた。 機械で出来たはずのトロンベは、暖かかった。 急速にアタシの意識は覚醒した。 そうだ、アタシに休んでいる暇なんて無いんだ。 ここで休めば、アタシはアタシを許せなくなる。 アタシは身体に渾身の力を込めて、立ち上がった。 正確には這い上がったという方が正しいと思えるくらい、無様な様子だっただろう。 ブロック塀に身体をもたれさせながら、ゆっくりと歩いていく。 あと少し、あと少しでエルゴだ。 その距離は10mも無いだろう。 こんなに10mを長いと感じたのは生まれて初めてだった。 どれだけ時間がかかったのだろうか。 十分か。 百分か。 一万分か。 アタシはそう錯覚を起こすくらい疲れ切っていた。 でも、ようやく辿りついた。 アタシはエルゴに倒れ込むようにして入った。 店長とうさ大明神様が滅茶苦茶驚いて、店長がこっちにかけよってきた。 「おいっ、大丈夫か!」 「店長ぅ……アタシのトロンベを助けて…お願い……」 アタシは腕の中に抱きしめていたトロンベを店長に託した。 店長はアタシのただならぬ様子を察してくれて、「任せろ」と一言だけ言うと奥に走っていった。 アタシはそこで気が緩んだのか、気を失ってしまった。 気がついたとき、アタシは二階のバトルスペースでイスを並べたものの上で横になっていた。 店長がかけてくれたのだろう毛布がありがたい。 アタシはトロンベの事で頭が一杯だったので早々に一階へと向かった。 ここでようやく気付いたのだが、時刻は既に七時半を回っていた。 店長は開店準備で忙しそうだった。 「やあ、おはよう」 「あ…おはようございます」 店長がアタシに気付き、声をかけてきた。 「あの、トロンベは…」 「彼女ならただの電池切れだけだったから何も問題ないよただ間接に雨水が相当入っていたから洗浄くらいはしたけどね」 「…そう、ですか…良かった……何も無くて」 アタシはトロンベが無事だと解って気が緩み、思わず涙が零れた。 「…ご主人様」 その声に俯きかけていた顔を上げた。 店長の手の平の上に、トロンベはいた。 アタシはもう何も考えられなかった。 涙が次から次へと溢れてきた。 もう、視界はぐちゃぐちゃで、その上床にへたり込んでしまった。 「…はい、お代は結構ですよ、お客さん」 店長はトロンベをアタシに手渡してくれた。 「ごめん…ごめんね……アタシが…バカだったせいで……」 アタシはもう感情を抑えることが出来なかった。 「アタシ…トロンベに甘えてたんだ……トロンベが優しくて、何でも言う事聞いてくれたから アタシ…調子に乗って……トロンベが傷ついている事も知らないで………ホントに…バカだよね… アタシみたいなマスター……もう嫌だよね…だから……良いんだよ。もう嫌いになってくれても……」 アタシは想いの全てを吐き出した。 謝罪。なんて大層な物ではない。 ただアタシが今までしてきた事への懺悔とでも言えば言いのだろうか。 もっとも、それだけで許してもらえるとは思ってもいない。 でも、言わずにはいれなかった。 アタシはやっぱりバカだった。 「……ご主人様」 いつもと同じ、けど少し震えたトロンベの声。 視界は涙でぼやけているが、トロンベの姿形だけはしっかりと見える。 「…私はご主人様を嫌いになったりしません」 「……え?」 「…私のご主人様は、ご主人様しかいません。ご主人様はただ一人。私の大好きな……ご主人様だけなんです」 トロンベも泣いていた。 「…でも、私では倉内さんには勝てませんだから、私を捨ててくださっても…」 「ばか…」 アタシはトロンベの言葉を抱きしめて封じた。 小さなトロンベ。 その小さな身体は確かに暖かかい。 血の通った人と、全く同じだった。 「アタシと、トロンベで勝たないと意味が無いのよ……」 「…ご主人様」 そうだ。 アタシはやっと理解した。 あの人が言っていた言葉。 『神姫は唯の玩具じゃない。笑いもすれば、泣きもする』 やっと、意味を理解した。 そして、アタシに足りないものも。 アタシは涙を袖で拭った。 そして立ち上がって店長に向き直った。 「店長さん、ちょっと用意して貰いたいものがあるんだけど?」 店長はにっと笑って応えた。 「毎度ありがとうございます、お客様」 リアルリーグ・センター。 駅から降りてすぐの場所にあるその施設は、傍から見れば競技に用いられるスタジアムのように見える。 しかし、そこで行われる物はサッカーでもプロレスでも無い。 それは神姫バトルに他ならない。 仮想空間にて行われる、安全なバーチャル・バトルではなく。 現実空間にて行われる、危険を伴うリアル・バトル。 センター内部には大ホールが一つ、中ホールが四つ、小ホールが八つある。 ホールの一つ一つにバーチャルバトルスペースを遥かに凌ぐ大きさの、リアルバトルスペースが配置されている。 大ホールは基本的に大きな大会、ファーストリーグ戦の決勝くらいにしか使われない。 その為、規模はサッカーコート並の面積を誇る。 中央に配置された一辺20m程の立方体。それを観客席が取り囲むように配置されている様はまるでコロッセオだ。 中ホールは同じくファーストリーグの予選に使われる。 面積は大ホールの半分程度。 と言っても、サード・セカンドランカーからしたらそれは大きすぎるだろう。 そして、倉内 恵太郎と水野アリカがいる小ホール。 バスケットコート程のホールの中央には一辺5mの立方体、即ちリアルバトルスペースが配置されている。 観客席というものは無く、ただ柵が選手と観客を隔てるだけの大中ホールと比べると質素な物だ。 「…今のアタシ達は、今までのアタシ達とは違うわ」 観客のいない小ホールにアリカの声が響く。 その声に今までのような驕り高ぶっていたものは無く、穏やかなものだった。 「だから、貴方にも本気で来て欲しいの」 穏やかな声音とは裏腹に恵太郎を見据えるのの瞳には闘志が漲っていた。 「もちろん、こちらとて手加減する気は毛頭無いさ」 声になんの感情も込めず、淡々と応える恵太郎。 ただ、アリカを見返すその眼にはやはり闘志が秘められていた。 お互いに必要最低限の言葉だけ交わし、セッティングに入る。 二人だけにしては広すぎるホールにカチャリ、カチャリという音が木霊する。 セッティングに費やす時間は数分程度。 お互いの神姫をバトルスペースの両サイドに開けられた出入り口に送り込む。 10平方mのバトルスペース。 フィールドは”ゴーストタウン” 神姫換算で100平方sm、そう広くは無い。 バトルスペースに降り立った神姫は、互いの姿を容易に確認する事が出来た。 「…少しは、やるようになりましたか?」 ナルは何時もと同じ装備。 即ち、右腕に銃鋼、左腕に刃鋼を装備し、腰には赤いアーマー。 「この装備は、私の力を最大限発揮することが出来る装備です。貴女にすら引けはとらないつもりです」 初めて戦った時とは全く違う様子で応えるトロンベ。 その声には自信と、大きな何かが含まれていた。 そして、その姿も同じく変化していた。 その身に纏うのはハウリン型の装甲ではなく、ヴォッフェバニー型の装甲。 腿にはモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを二挺。 腰にアルヴォ PDW9とSTR6ミニガンを括りつけ、右腕には“シェルブレイク”パイルバンカー。 左腕にはポラーシュテルン・FATEシールドにフルストゥ・グフロートゥを四つ取り付けたもの。 そして、背中にハグタンド・アーミーブレードを交差させて背負っている。 今までとは見違える様な、ある種洗練された装備。 二人の間には、見えない火花が散っていた。 『バトル開始5秒前』 アナウンスの声が響く。 それと同時に身構える両者。 『4』 ナルは半身になり、刃鋼を前に突き出す。 『3』 トロンベは腿のモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを抜いた。 『2』 ナルは静止。 『1』 トロンベは腰を深く落とした。 『スタート』 バトル開始を告げるアナウンスと同時にトロンベは駆けた。 大地を力強く踏みしめて、ナルへ向かい一直線に駆けた。 対するナルは未だに静止、微動だにしない。 トロンベは駆けながらモデルPHCハンドガン・ヴズルイフのセーフティを外した。 そして、放った。 二発。 四発。 六発。 八発。 十発。 十二発、全てを撃ち切った。 弾丸はナル目掛けて殺到するが、如何せん走りながらの射撃では命中力はそう高くない。 弾丸の大半はナルの傍を掠めていった。 しかし、中には正確にナル目掛けて飛び行くものもあった。 だが、それはほんの少し動かしたナルの刃鋼によって弾かれ、あさっての方向へと飛んでいった。 トロンベは弾の切れた得物を放り投げ、背中から二振りのハグタンド・アーミーブレードを抜いた。 そして一気に跳ぶ。 3smを一息で詰める。 トロンベと刃鋼が接触しそうな距離、そこで両者の距離は一気に縮まった。 それはトロンベが意図しない接近だった。 ナルが大きく左足を踏み込み、トロンベの身体をすくう様に刃鋼を薙ぎ上げたのだ。 だが、予想外の行動でもトロンベは慌てたりしなかった。 下から迫る刃鋼に右手に持つハグタンド・アーミーブレードを押し当て、防御。 甲高い金属音が鳴り響く中、トロンベは刃鋼の上で逆立ちするような姿勢になりながら、右腕だけで跳ぶ。 刃鋼の薙ぎ上げるエネルギーをも利用したそれにより、トロンベはナルの背後を取った。 そして、両手に持つハグタンド・アーミーブレードをナルの腹部に突き刺そうとした。 「トロンベ、左防御!!」 アリカの声にその方向すら見ないで左手のポラーシュテルン・FATEシールドで防御する。 その次の瞬間、凄まじい衝撃がトロンベの腕に伝わった。 思わず吹き飛ばされそうになるのを脚に力を入れ、腕に力を入れ、全身に力を入れ耐え抜いた。 「…お見事」 その声の主は存外に近い場所にいた。 息と息が触れ合いそうな距離、そこにナルの顔が合った。 そして、トロンベの身体にかかる荷重の正体も察した。 それは刃鋼だった。 ナルはトロンベが刃鋼から跳んだ後、左足を軸に半回転していた。 左腕を真直ぐ伸ばしながらの回転により、遠心力が上乗せされたそれはトロンベの元へと迫ったのだ。 防御していなければ胴体を真っ二つにしていただろう。 しかし、トロンベに接触したのが刃鋼の根元部分だった為に、本来の威力を出せなかったのも大きい。 「今よ! トロンベ!!」 アリカの声が響いた。 その瞬間、廃屋の影から一発の弾丸が放たれた。 それはナルを正確に狙い済ました一撃だったそれを、真上に飛ぶことによって回避したナル。 弾丸は地面を打ち抜き、粉塵を巻き上げた。 「ぷちマスィーンズ……!」 マオチャオとハウリンのデフォルト装備の一つである小型遊撃機。 恵太郎は呟いた。 その声には驚きと享楽の色が含まれていた。 その一機の下部につけられた蓬莱・壱式からの攻撃が正体だった。 着地したナルにトロンベは容赦なく追撃を加える。 STR6ミニガンとアルヴォ PDW9の掃射。 連射性能に定評があるそれらの弾幕を、ナルは大きく跳躍することで回避した。 目指す先は廃屋の屋上。 そこでナルは一旦体勢を立ち直そうとした、が。 「ナル、上だッ!」 ナルは屋上にいた先客の手荒い歓迎を受けた。 上空からの一撃。 それを身を捩ってかわすが、背部センサー類を破壊されてしまう。 背後から突撃してきたそれは、突撃槍デファンスを取り付けたぷちマスィーンズ。 しかも、先客は一体だけではなかった。 アンクルブレード、破邪顕正、フォービドブレイドをそれぞれ取り付けたぷちマスィーンズが合計四機。 ナルは完全に囲まれていた。 そして、トロンベが蓬莱・壱式を積んだぷちマスィーンズ共に屋上に上がってきた。 「チェックメイトよ」 アリカは静かに呟いた。 その呟きは恵太郎に対する宣戦布告だった。 「なんだ、やれば出来るじゃないの」 恵太郎は5m先のアリカに声をかけた。 その顔は、心無しか嬉しそうだった。 「……これほどとは」 ナルは周囲を見回して驚嘆の声を漏らした。 「当たり前よ。アタシとトロンベのタッグに敵は無いわ!」 その言葉にトロンベも言葉には出さずにアリカの方に向き、微笑んだ。 「……なるほ、ど……なる、ほど……な、る、ほ、ど……」 不意にナルが俯いた。 何時ものナルには見慣れない、何かを押し殺したように呟いく。 「……ふ…ふふ………」 そして、喉の奥底から擦れた笑い声を漏らした。 それに何かを感じ取ったのか、身構えるトロンベ。 「何、どうしたの?」 アリカはその変わりように戸惑った。 ナルは顔を上げ、短く言った。 その顔は笑みで歪んでいた。 「……キミ、とっても良いです」 トロンベは感じた。 ナルが口を開いた、その瞬間に空気が変質したかのような錯覚を。 まるで見えない何かに纏わり憑かれている様な、おぞましい錯覚。 「…凄ぉく、良い。今すぐ、キミを食べてしまいたいくらい」 狂気。 今のナルを一言で表すなら、それは狂気以外の何物でもなかった。 その赤い瞳は狂気で彩られ、その表情には理性などこれっぽちも感じられない。 トロンベは反射的に危険を感じ、ぷちマスィーンズに攻撃を命じた。 それに呼応し、五体のぷちマスィーンズは五種五様の軌跡を描いてナルに迫った。 あるものは一気に加速し、あるものは力を溜める様に減速して。 あるものは弧を描くように、あるものは一直線に突撃した。 「さて、見せて貰おうか」 恵太郎の声がホールに響いた。 それとほぼ同時に、ぷちマスィーンズがナルと接触した。 否。 ナルは避けた。 まるで木の葉の様にひらひらと動きながら。 高速で迫るぷちマスィーンズ達を、避けた。 まるで酔っ払いのようなふらふらとした足取り。 身体を少し傾けて、身体を少し捻らせて、身体を少し揺らすだけで。 迫り来る攻撃の全てを紙一重で避けている。 そして、笑っていた。 その口は端まで吊り上がり、喉の奥から声が漏れている。 そして、刃鋼を無造作に横に向けて真直ぐに伸ばす。 「…あははぁ、邪魔ですよぉ」 そして、渾身の力を込めて振り回した。 先程とは違う、無造作でいて隙だらけのような攻撃。 しかし、それとぷちマスィーンズの突撃は全く同じタイミングだった。 五機のぷちマスィーンズは爆発炎上した。 黒煙が立ち込める中、ナルは立っていた。 その姿は、まるで幽鬼。 「さぁて、これで邪魔者はいませんねぇ」 ゆらり、ゆらりとトロンベに迫る。 トロンベはある筈のない本能的に、何かを感じ取っていた。 それは未知なる物への恐怖だった。 思わず脚が後退る。 その時。 「トロンベ! 今の貴女は一人じゃないわ! アタシがついてる! だから、前だけを向いて走りなさい!」 アリカの声が響いた。 たった、それだけ。 それだけで、心を蝕みかけていた恐怖が払拭された。。 そして、トロンベは忘れる所だった。 今の自分は、一人で戦っている訳ではない事を。 そして、思い出した。 あの時の苛つきを。 『まさに負け犬と言った感じでしたよ?』 あの時の、ナルの言葉を。 心底落胆したような、見下したような、哀れむような、その言葉を。 「もう…負け犬なんて呼ばせないッ!」 トロンベは咆えた。 それは気高い狼の咆哮だった。 その心には、もう恐怖は無かった。 今、トロンベの心を満たすのは誇り。 トロンベは駆けた。 体勢を低くして駆ける様は、野生の狼を連想させた。 「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」 両手にはハグタンド・アーミーブレードを。 心には誇りを以って。 突撃した。 「いい顔ですねぇ」 それに対し、ナルはその顔に歪んだ笑みを浮かべ、駆けた。 両腕をだらりと垂らして、前傾姿勢で駆ける様は狂気を感じさせた。 そして、衝突。 ナルは舞う様に、踊るように、刃鋼を奮う。 上から、下から、横から、ありとあらゆる体勢から刃鋼を繰り出す。 突き、斬り上げ、斬り下ろし、薙ぎ払い、全てをごちゃ混ぜにしたその斬撃はデタラメで、無茶苦茶で、恐ろしく正確だった。 円を描くように動いたと思えば、次の瞬間には一気に詰める。 ありえない体勢から繰り出す予測不能な斬撃は、トロンベを困惑させた。 しかし、トロンベに恐れは無い。 今のトロンベは一人ではないからだ。 「…次は右! その次は上!……危ない、下からッ!」 トロンベ一人では計りきれない斬撃を、アリカが教える。 神姫の目の届かない事を、マスターが補う。 お互いを信頼する事で初めて可能となる、基礎の中の基礎にして奥義の中の奥義。 そして、神姫バトルにおいて最も必要な技術。 トロンベとアリカは、それを完全に思い出していた。 それを以って、トロンベはナルの斬撃と同等に渡り合った。 避けられる物は着実に回避し、回避できないものは左腕のポラーシュテルン・FATEシールドで防御する。 そして、隙を見て攻撃を加える。 それを一言で表すならば、質実剛健。 派手さは無いが、確実な結果を伴うその戦い方は、トロンベの性格を良く顕していた。 一見してみればナルが圧倒的に押しているこの状況は、均衡を保っている。 しかし、二人の舞台は、廃屋の屋上では狭すぎた。 ナルは床などお構い無しに斬撃を繰り出していく。 斬撃を繰り出すたびに、床が抉れて下の階層への穴を覗かせる。 そうしていく内に、どんどん足場が減って言ったのだ。 そして、遂に足場が崩れた。 床が崩壊したのだ。 それはピンチであると同時に、チャンスでもある。 ナルは足場が崩れるその瞬間に、身体を丸めて全身のブースターを吹かした。 ナルの身体は縦方向に激しく回転を始め、万有引力に引かれて落下する。 その先には落下途中のトロンベがいる。 「あははぁ!」 そして、思いっきり刃鋼を振り下ろす。 回転運動によって速度を上げた刃鋼が、トロンベへと迫る。 しかし、ナルはこれで終わるとは思っていなかった。 終わらせてくれるなと思っていた。 その期待に応え、トロンベは刃鋼を受け止めた。 否。 トロンベは刃鋼を打ち壊した。 右腕に備え付けられた“シェルブレイク”パイルバンカー。 刃鋼が迫るその瞬間に、絶妙のタイミングでそれを打ち込んだのだ。 その一撃が刃鋼を中ほどから打ち壊したのだ。 「刃鋼が折れた…?」 刃鋼は恵太郎自ら制作した武器である。 様々な合金を配合し、強度だけなら実弾すら防げるほどの物だ。 それが、折れた。 恵太郎は心底驚いた。 「…トロンベがただ守りに徹すると思う?」 アリカは静かに、しかし嬉しそうに口を開いた。 「さっきの斬り合いのとき、トロンベはあのでかい剣の同じポイントだけを攻撃してたの」 「なるほど。使い古された手だけど、堅実で正しい判断だ」 恵太郎は嬉しくて堪らなかった。 一歩間違えば自身にも危険が及ぶこの離れ業。 それをやってのけたのだ。 「へぇ……やりますねぇ」 ナルは折れて半分ほどの長さになった刃鋼を見ながら、感心したようにしきりに頷いていた。 トロンベは距離を置いて、ナルの様子を覗っていた。 「で、も」 一頻り頷いたナルは、その視線をトロンベに移した。 「バトル中に無防備な相手に攻撃を仕掛けないのは何で、かなぁ」 ナルは銃鋼をトロンベに向け、放った。 無数の光弾がトロンベのみならずゴーストタウンの一角に浴びせられる。 凄まじい爆音と砂煙。 それが視界を封じた。 銃鋼からの攻撃を受けたとなりの廃屋は上半分がガレキと化していた。 「あはぁ、まだまだこれからですよぉ」 半壊した廃屋から眼下のガレキの山に向かって、ナルは言った。 「…当たり前、です」 砂煙の中から声だけが聞こえた。 「あははぁ、そうでなく、ちゃ、ねっ!」 ナルは満面の笑みを浮かべ、廃屋から飛び降りた。 ガレキを粉砕しながら着地したナルは、トロンベの姿を探した。 「なぁに、かくれんぼぉ?」 周囲を廃屋に囲まれたそこは、未だに砂煙が充満していた。 まるで無邪気の様にキョロキョロと周囲を見回すナル。 「ナル、右だ!」 恵太郎の声が響いた。 「きゃぁ、怖いですねぇ」 空を斬りながら、飛来する刃。 フルストゥ・グフロートゥの投合。 ナルの腹部を目掛けて投擲されたそれを銃鋼で防いだ。 四つのフルストゥ・グフロートゥが突き刺さった銃鋼がもう使い物にならないと判断したナルは、銃鋼を無造作に投げ捨てる。 ゴトン、という音が周囲に響く。 静寂。 周囲を不気味な静寂が支配した。 風など発生しないこのフィールドでは、砂煙は中々晴れない。 「ふふぅ」 そんな中、ナルは楽しそうに辺りを見回していた。 心底楽しそうに。 心底嬉しそうに。 しかし、無意識の内にこの状況で有り得る戦法について思いを巡らせていた。 視界の利かない空間で、最も有効な戦法。 それは、奇襲。 相手が気付いていなければほぼ確実に仕留める事が可能な戦法。 まさに、今だ。 「だ、め」 だが、トロンベはガレキの上に力なく臥した。 「……っ」 ナルの刃鋼による突きが、トロンベの腹部に叩き込まれたのだ。 トロンベは気配を消し、背後から奇襲を仕掛けた。 しかし、その攻撃はナルに察知されていた。 「だめだよぉ、ちゃんと足元にも気を配らなきゃぁ」 ナルはそういって石ころ大のガレキを蹴飛ばした。 地に臥せるトロンベの傍らに歩み寄り、折れた刃鋼を突き付ける。 「どうするぅ、どうするの? 私を倒すんでしょう? 勝機は幾つ? 千に一つ? 万に一つ? それとも億ぅ? それとも兆? もしかしたら京かなぁ?」 「……例えそれが無量大数だとしても、私達には充分すぎる!」 挑戦的なその言葉。 その言葉に、トロンベは誇りを持って応えた。 それと同時に懐に隠し持っていた手榴弾を炸裂させた。 「いやぁ~」 至近で爆発した手榴弾に、両者は大きく弾かれた。 手榴弾の爆発によって、周囲に充満していた砂煙は吹き飛ばされた。 視界が開け、両者の姿がはっきりと確認できる。 ナルはガレキの中から刃鋼を杖にふらふらと立ち上がった。 「うふふぅ、捨て身の攻撃なんてらしくないですよぉ」 その腹部には大きな傷が出来ており、内部機構が垣間見えていた。 それだけではなく、左の足は半壊していた。 もう歩く事すらままならないだろう。 「捨て身?……違いますよ」 満身創痍のナルに対し、トロンベはほぼ無傷だった。 その理由は、手榴弾の性質にある。 先程の手榴弾は、爆発に志向性を持たせた特別性なのだ。 攻撃範囲こそ狭い分、その威力は折り紙付きである。 よって、トロンベは吹き飛ばされたのではない。 自らの意思で退いたのだ。 「このバトル」 「アタシ達の勝ちよ」 トロンベとアリカが声を合わせた。 その声ははったりなどではない事を、ナルも恵太郎も解っていた。 「考えたなぁ」 だから、恵太郎は素直に驚いた。 手榴弾の爆風によって砂煙が晴れた時、そこはガレキの山だった。 周囲は廃屋に囲まれていて、逃げ場は空しかない。 しかも今のナルは足を負傷しており、跳ぶどころか歩く事すらもままならない。 フィールドを照らす照明の光に、何かが反射した。 それは極細でありながら抜群の強度を誇るモノフィラメントワイヤー。 それはトロンベの手元から四つの廃屋に伸びていた。 その先には、バトル開始後直ぐにぷちマスィーンズが配置した手榴弾が仕掛けられている。 初めから、最後までナルはトロンベの手の平の上で踊っていたのだ。 「これは、私からのお礼です!」 トロンベは手を振り上げた。 それと同時に、何かが抜ける音がした。 直後、爆発。 既にボロボロだった廃屋の壁を、手榴弾は破壊した。 そして、この手榴弾は指向性を持っている。 ナルの方へ向けられた爆発は、廃屋の壁をナルに向けて爆破したのだ。 「流石に、これは無理ですよぉ」 それを、ナルは笑って受け入れた。 「完敗だよ」 恵太郎はそういってアリカに握手を求めた。 「…ありがとうございました!」 アリカは清々しい声と共に一礼し、握手に応えた。 最早、両者に言葉は要らなかった。 が、しかし。 「…あの!」 アリカは顔を力強く上げて、恵太郎を真直ぐに見つめた。 その頬は、心なしか赤くなっていた。 「師匠、って呼んでもいいですか!」 恵太郎は泣きたくなった。 先頭ページへ 次へ おまけ ガレキの山に埋もれながら、一体の神姫がやさぐれていた。 「あは、ははは、ははははは……笑いなよぉ、笑いなよぉ!」 ガレキの山を掻き分けながら、一体の神姫ががんばっていた。 「い、今助けますからっ!」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1072.html
戦うことを忘れた武装神姫 - type_S -02 皆様、こんばんは。 神姫との生活、いかがお過ごしでしょうか。 キャッキャウフフも、ドキドキハラハラも。そして、夜の生活も。 それぞれに、それぞれの生活があることでしょう。 しかし。 世の中には、本当は怖い神姫との生活というものもあるのです。 今宵は、その一部をご紹介しましょう・・・。 ・ ・ ・ ・ ・ ~めざまし神姫・Phase-1:マオチャオの場合~ 朝。 目覚まし時計の電子音が部屋に響く。 「・・・。」 布団から手がぬっと出てきて、器用に目覚まし時計の電池を外した。 電子音が止まると、再び手はずるずると布団の中へ。 「にゃーん! あさだよぉ! にゃーさん、早く起きてぇっ!」 マオチャオが、小さな手でまくらの上でよだれを垂らす男の顔をぺちぺちと叩く。しかし、布団の中の人物は一向に目を覚ます気配なし。 「おーきーてー! 遅刻するのー!!!」 今度はファンビーを持ち出し、豪快におでこをごちごちと叩いた。 すると、男は・・・無言でマオチャオごと払いのけた。 華麗に着地を決めるものの、必死に起こしているのに吹っ飛ばされてえらくご不満な様子。 「むー・・・。」 一瞬むくれた顔付きになったが、すぐに何かを思いだしたのか。ぴょんとベッドから飛び降りると、ちょいちょいと走り去って・・・ 数分後。 装備を整え、手には・・・貝杓子。がらがらと騒音をたてながら、ベッド上に貝杓子を引きずりあげた。 「にへぇ・・・っ!」 不気味に、マオチャオの目が輝いた。 「にゃーさんは、『どんな方法を使ってもいいから起こせ』って言ってたよねー。」 にやり口元に不気味な笑みを浮かべると、マオチャオは身体を目一杯反らせて大きく振りかぶり・・・ 「にゃーさーん! 起・き・る・の・だー!!!!」 かぁん!!! マオチャオは、貝杓子で男の頭を容赦なく叩いた。 男が、一瞬ぴくりと動いた。 「にゃにゃ? まだおきないのー?」 ろくに確認もせず、エルガは再び振りかぶると。 「おっきろ、にゃーさん! おっきろ! 朝なのだー!!」 かぁん! かん、かん、かぁん!! 様々な角度から、楽しそうに連打。 その豪快な音に、他の神姫たちが起きてきた。 「なにをしてるんですかマオチャオ、朝から騒々し・・・いぃ?!」 ちょっと寝癖を付けて目をこすりながら現れたハウリンが、大きな目をさらに大きく丸くして絶句した。そこには、数多くのコブを乗せ、白目をむいてよだれを垂らす男、すなわちマスターの姿・・・!!! 「きゃぁ~~~! マスター!しっかりして下さい!」 右往左往するハウリンの横では、何が起きているのかイマイチ理解できずに、歪んだ貝杓子を手にぽやぁんと立っているマオチャオの姿があった。 ・・・結局。 この日、男が目を覚ましたのは午前10時を廻っていたそうな。会社には2時間の遅刻。 帰宅後、おしおきボックスにマオチャオを投じようと考えていた男であったが、帰り着いて見たものは、わんわんと泣きじゃくり、バッテリー切れ寸前となっているマオチャオ。 もちろん・・・やさしく叱ることしかできなかったことは言うまでもない。 神姫との生活。 それは、地獄と表裏一体なのかも知れない。 >>次の話を読んでみる>> <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2227.html
ウサギのナミダ・番外編 少女と神姫と初恋と その2 ◆ 美緒は不安で沈んだ気持ちのまま、待ち合わせのM駅に降りたった。 彼と最寄り駅で待ち合わせ。 彼の家に初めてのお呼ばれ。……理由が何であっても。 心の準備が整う間もなく、放課後はやってきて、あわただしく下校して、家で大急ぎで私服に着替え、最速で身支度を整えて、パティと神姫の装備とメンテナンス用具が入っているカバンをひっつかみ、そのまま自宅を飛び出した。 肩まで掛かる髪を撫でつけながら、思う。 もっと気の利いたおしゃれができるように、なっていればよかった。 梨々香の言うことをもっと聞いていれば、こんなときに困ることもなかっただろうか。 美緒は正直に言って、おしゃれが苦手だった。 きれいな容姿や可愛い格好には、人並みに興味はある。 だが、ファッション誌に載っているような服やアクセサリーが自分に似合うとは、どうしても思えない。 その原因は、自分の身体にあると、美緒は思っている。 やはり、少し太っているから、あんなモデルのように細身の人が似合うような服は、わたしは着られないのだ。 そう思いこんでいる。 梨々香は「そんなことないよ!」と力説するが、それは親友に対する気遣い、あるいはお世辞というものだろう。 そんな思いこみの結果、美緒は何とも無難で地味な服しか持っていないのだった。 こんなおしゃれの欠片もない、地味な女の子を、安藤はどう思うだろうか。 それが不安で仕方がない美緒だった。 改札を出て、左手の出口に向かう。 「おーい、八重樫!」 安藤はもうそこにいた。手を振っている。もう逃げられない。 美緒はもう、不安でどうにも爆発しそうだった。 ◆ 「それじゃ、行くか。今日は頼むな」 「うん……」 安藤は笑っている。 美緒の私服姿を気にもとめていないように、いつもどおりに。 美緒はほっとするのと同時、なんだか不満だった。 安藤ももちろん私服姿である。シャツにジーパン、スニーカーというシンプルな格好だが、異様にかっこいい。 彼の背を見ながらついていくだけでドキドキが止まらない。 なのに、彼は、美緒の姿を見てもいたって普通だ。 もちろん、自分に魅力がないのは分かっているけれど……。 不公平だ、と美緒は思う。 わたしばっかりドキドキしたり不安になったりで、彼はちっとも普段の様子を崩そうともしない。 その原因が、自分のあか抜けなさにあることは百も承知なのだけれど。 ……もし、自分がもっときれいでおしゃれな女の子だったら、彼と一緒に歩いても、釣り合いが取れるだろうか。彼も少しくらいドキドキするのだろうか。 美緒は歩きながら、そんなことを悶々と考えていた。 駅から一〇分ほど歩いた住宅街の中に、安藤の家はあった。 安藤の招きに応じ、門構えをくぐって玄関に入る。 「ただいまー」 「お……おじゃまします……」 美緒が挨拶を言い終えるより早く、 「お、おかえり」 ハスキーな女性の声が聞こえた。 玄関から奥へと続く廊下に、長身の派手な女性が立っていた。 髪はカールをかけたロングヘア、軽く化粧をしているだけのようなのに、目鼻立ちがとても派手である。 細身の長身はプロポーション抜群。肩をむき出しにしたスパンコールをちりばめたトップスが、異様に似合っている上に、目のやり場に困るほどセクシーだった。 「姉貴……いたのかよ」 「いちゃ悪いのかい、弟」 (お姉さん!?) 不機嫌そうな姉弟のやりとりの脇で、美緒は驚愕した。 安藤に姉がいるのは知らなかったし、たとえ知っていたとしても、予想とは全然違っているように思う。 あのさわやか系で通っている安藤の姉が、ギャル系ファッション誌のトップモデルみたいな女性だと誰が思うだろうか。 安藤姉は二人をじろりと睨む。 「姉のいぬ間に女を連れ込もうってか……まったく、浅はかだねぇ」 「姉貴っ! オレの客の前で失礼なこと言うな! 八重樫には、オレから頼んできてもらったんだ」 「はぁん? オマエに女を連れ込む度胸があるとは思っちゃいないが、どういう用件だい」 怒り出した安藤に対し、姉の方はニヤニヤと笑いながら余裕の表情である。 美緒は誤解を解こうと口を挟んだ。 「あ、あの……安藤くんに、神姫のことで教えてほしいことがあるって、相談されて、それで……」 「神姫ィ?」 呆れたような声で言った安藤姉は、前屈みになって、美緒の前に顔を突き出した。 近すぎる派手な美人顔に、思わず後ずさる。 ふーむ、と五秒ほど顔を値踏みするように眺められた。 そして、 「弟、お茶用意しな。彼女はアタシがアンタの部屋に案内しとく」 「なんでオレが……」 「文句言うな! いいからさっさとやる!」 安藤は頭を掻きながら、不満顔のまま玄関を上がった。 「八重樫、とりあえず上がって……姉貴についてってくれ」 美緒にそう言うと、廊下の奥のキッチンに足を向けた。 どうも姉の命令には逆らえないらしい。 美緒はもう一度、おじゃまします、と言って靴を脱いだ。 安藤宅に上がり、改めて安藤姉を見る。 不敵に笑う彼女の存在感に圧倒される。 初対面のはずなのだが、なぜか美緒には、その不敵な笑顔に見覚えがあった。 弟の背がキッチンに消えると、不意に安藤姉の雰囲気が柔らかくなった。 「そんじゃ、ついてきて」 「あ、はい」 姉の先導で、右手にあった階段を上る。 意外なことに、安藤姉の方から美緒に話しかけてきた。 「ヤエガシちゃんも神姫やるんだ?」 「はい……あんまり強くないですけど」 「ああ、バトロンもやってんのね。アタシも少しはやるけど」 「え? お姉さんも……神姫のオーナーなんですか?」 「そうだよ。……ヴィオ、挨拶して」 そう言うと、長い縮れ髪の間から、薄紫のパールカラーのバッフェバニー・タイプが顔を出した。 メイクされた顔立ちは妖艶で、その雰囲気もどこかオーナーに似ている。 「ヴィオレットです。よろしく、ヤエガシさん」 「よろしく……って」 その神姫の名を聞いて、ひらめくものがある。 そう、バッフェバニーのヴィオレットと言えば…… 「もしかして……お姉さんは、Tomomiですか!?」 「あれ、知ってるんだ。そりゃ光栄」 驚愕している美緒に、安藤姉はこともなげに肯定した。 知っているどころではない。 女性の神姫オーナーで、Tomomiの名を知らぬ者はないだろう。 それどころか、美緒と同じ年頃の女の子なら、大半は知っているはずだ。 Tomomiは女性たちの憧れ、カリスマモデルである。 女性向けのファッション誌での活躍はもちろんであるが、彼女には他のモデルにない特徴があった。 神姫を連れていることである。 彼女の神姫・ヴィオレットもまたモデルである。 時にヴィオレットは、Tomomiを飾るワンポイントであり、時にTomomiとお揃いの服を着こなす。 その様子が、新しもの好きの少女たちに受けた。 Tomomiの影響で、おしゃれのパートナーとして神姫のオーナーになった女の子は、決して少なくないだろう。 そんなTomomiとヴィオレットを、神姫業界の方でも放って置くはずがない。 いまや神姫専門誌やら神姫の情報サイトやらでもひっぱりだこだ。 Tomomiとヴィオレットは、非武装派の神姫オーナーたちのカリスマにもなっている。 そんなTomomiが安藤のお姉さんだったなんて……美緒にしてみれば、思いも寄らぬ展開に驚愕するばかりだった。 ふと、美緒は疑問に思う。 お姉さんが神姫オーナーならば、神姫のことを少なくともそれなりに知っているはずではないか? 「あの……Tomomiさんは、神姫に詳しいですよね?」 「うん? まあ初心者に毛が生えた程度のもんだけど」 「だったら、安藤くんは、神姫のことをお姉さんに聞けばいいのでは……?」 「ヤツはアタシのこと毛嫌いしてっからさぁ。 ……あ、ここね」 Tomomiは無造作に、その部屋の扉を開けた。 美緒の目に映るのは、きれいに片づいた、あまり飾り気のない部屋だった。 あまり広くない部屋に、ベッド、机、キャビネット、本棚が機能的に配置されている。 ポスターなどの装飾は見られない。 そんな中、机の上に置かれた武装神姫のパッケージが異彩を放って見えた。 「それに、アタシは絶対教えないね。男だったら自分で神姫の立ち上げくらいやれっての」 美緒を部屋に入れると、安藤の姉はそう言ってからからと笑う。 そしてまた美緒に向き直り、 「まあ、智哉はそんな感じで、気が小さくて、全然頼りないヤツなんだけどさ。よろしく頼むよ」 そう言って派手なウィンクを美緒に寄越した。 美緒は目を白黒させながら、それでも考えている。 頼りないって……安藤くんが? 美緒にはとてもそうは思えなかったが、とりあえず、こくりと頷くしかなかった。 「それと、もし智哉に襲われそうになったら、大声で助けを呼びな。アタシがヤツをぶっちめてやっから」 そう言って不敵な笑みを浮かべた。 その表情が、彼女の派手な顔立ちに異様なまでに似合っていた。 美緒が驚くばかりで固まっていると、 「こら姉貴! 八重樫に何吹き込んでるんだ!」 安藤がお盆を抱えたまま、横合いから姉をどついた。 「神姫オーナー同士、友好を深めてたんだよ。オーナーじゃないオマエには関係ないだろ」 「つか、関係ないのは姉貴だろ! とっとと出てけ! それに、もうすぐオレもオーナーになるんだからな」 「へいへい」 安藤姉は、艶やかな笑顔で美緒に手を振ると、部屋から立ち去った。 安藤は深い深いため息をつきながら、部屋の扉を閉める。 「……姉貴が帰ってきてるとは不覚だった……」 がっくりとうなだれつつ、部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルに、お盆を置く。 お盆の上には、コーヒーカップが二つ載っていた。 どうぞ、と差し出されたカップを素直に受け取る。 湯気の向こうの安藤は、まだうなだれていた。 そんなに姉が在宅だったことがショックなのだろうか。 「で、でも、お姉さんが、あのTomomiだなんて、全然知らなかった」 「学校じゃむしろ秘密にしてるぐらいなんだよ……あんなのが姉貴って、ありえないだろ」 「そ、そうかな……」 美緒も年頃の女の子なわけで、あのカリスマモデルが姉だなんてメリット以外には思いつかない。 安藤もようやく落ち着いたのか、深いため息を一つ吐くと、顔を上げて微笑んだ。 「まあ、あんなヤツのことはどうでもいいから……神姫のセットアップ、はじめようか」 美緒はその微笑にドキリ、と胸を高鳴らし、小さく頷いた。 ◆ 「……それで、ここに小さなチップを三つ、セットすればいいんだな?」 「そうそう。三つのチップの組み合わせで、その神姫の得意なこととか性格が決まるから、チップ選びは慎重にね」 アルトレーネのパッケージを開けた頃から、美緒の緊張も薄らいできていた。 安藤は素直で真面目な生徒だった。美緒の指示をよく聞き、滞りなく作業を進めていく。 「でも、気に入らなかったら、チップの配置をやり直せばいいんじゃないか?」 「うん……そうではあるんだけど」 美緒は眉根を寄せて表情を曇らせる。 「わたしはあんまり好きじゃない……チップの配置を変えると、その前に設定された『心』も消えてしまうの。人間の都合で、何度も何度も神姫の心を消してしまうのは、かわいそう」 「そっか……俺たちだって、誰かの都合で無理矢理性格変えられたりしたら、イヤだもんな」 「うん。だから、はじめに配置したCSCの設定を大事にしたいの」 「そうだな。オレもそうするよ」 安藤は三つのチップを慎重に選び出す。 「八重樫はやさしいな」 「えっ……!?」 視線を合わせずに呟く言葉は、まさに不意打ちだった。 やっと緊張がほどけてきたのに、また心臓が爆発しそうになる。 「そんなこと、ないよ……」 美緒が呟くいつもの言葉は少し震えている。 そう、神姫の心を大切にしたいなんて思うことは、普通、普通だ。 美緒はそう自分に言い聞かせながら、ドキドキが収まらない胸を手で押さえた。 (やだもう、どうしてそんなに、ずるいことばっかり言うのーーーーっつ!?) そのさわやかな顔立ちさえ、美緒には憎らしく思えてくる。 しかし、チップをCSCに慎重にはめ込むときに見せる、真剣な表情に、どうしても見とれてしまうのだった。 「よし、できた」 そんな複雑な乙女心を知るはずもなく、安藤は美緒の方に笑顔を向けた。 美緒は彼の顔をまともに見られず、やっぱりうつむいてしまう。 「そ、そしたら……クレイドルの上に載せて、PCに出てくるメッセージに従って進めればいいから」 「わかった」 安藤が神姫の胸部パーツを閉じ、ボディをクレイドルの上に載せる。 すると、PCが神姫との接続を認識、神姫管理用ソフトを自動的に立ち上げ、初期設定のセットアップに移行する。 いくつかのメッセージに対し、『はい』の解答を行う。 そして、 「武装神姫・アルトレーネ 初期登録モードで起動します」 神姫の口から出た言葉に、安藤は少し動揺した。 その安藤の目の前で、神姫はぱちりと目を見開く。 大きな瞳に、安藤の顔が映っている。 「ユーザーの登録と認証を行います。ユーザーの名前を音声で入力してください」 安藤が振り向き、美緒に目配せしてきた。 美緒は大丈夫、と小さく頷いた。 「あ……安藤智哉」 安藤は少し緊張している。 誰でも初めての神姫の起動の時は緊張するものだ。 大きな期待とひとつまみの不安。 美緒も、パティを起動したときの緊張を思い出す。 「あんどうともや、様で登録しました。安藤様を何とお呼びすればよろしいですか? 音声で入力してください」 「……マスター」 このあたりの入力は、どの神姫でもそうかわらない。 入力項目について、あらかじめ決めておくように、美緒から言い含められていた。 「最後に、神姫の名前を音声で入力してください」 「オルフェ」 抑揚のない神姫の問いに、安藤は即答する。 神姫は黙り込み、空中を見つめているように見えた。 それも一瞬のこと。 「登録完了しました。 オルフェ、通常モードで再起動します」 事務的な口調のメッセージが流れた後、神姫は一度目を閉じ、全身から力を抜いた。 一瞬の後、再び顔を上げ、ぱちりと瞳を見開く。 そこに宿るのは、感情の色。先ほどの事務的で無機質な視線とは明らかに違って見える。 神姫は、安藤を見上げた。 視線が交わる。 安藤は少し驚いて、肩を震わせた。 そんな安藤に、彼の神姫はにっこりと笑いかける。 「はじめまして、マスター。今日からあなたの神姫になりました、オルフェです。これからよろしくお願いします!」 元気のいい、さわやかな声が響いた。 にっこりと笑うオルフェ。 「ああ、よろしく……よろしくな、オルフェ」 「はい!」 少し戸惑いつつも挨拶した安藤に、オルフェは明るく応えた。 美緒はほっとする。オルフェは明るく元気な性格のようだ。きっと安藤とうまくやれるだろう。 CSCの再設定を否定しておきながら、神姫の性格が良くなかったらどうしよう、と密かに心配していたのだった。 「……パティ」 「はい」 持ってきていたバッグから、美緒の神姫が顔を出した。 美緒はパティを手に取り、机の上に立たせる。 安藤は彼女をじっと見つめた。 「へえ、この子が八重樫の神姫かあ」 「あの、マスター。この方は……?」 オルフェにしてみれば、見るもの出会うものすべてが初めてだ。 彼女は美緒とパティを見比べながら、安藤に問う。 安藤はほほえみながらオルフェに説明した。 「彼女は八重樫美緒さん。オレのクラスメイトで……神姫のことをいろいろ教えてもらっている、先生だ」 「……よろしくね、オルフェ」 安藤にフルネームを(特に下の名前を!)呼ばれるのは、なんだかとても気恥ずかしい気がした。 美緒の挨拶に、オルフェは満面の笑みで応えた。 「それから、この子はわたしの神姫で、パトリシア」 「よろしくお願いします、オルフェさん」 礼儀正しくお辞儀をしたパトリシアに、オルフェも頭を下げた。 「こちらこそ。わたしは起動したばかりなので、いろいろ教えてくれると嬉しいです。パトリシアさん」 「もちろんです。……それから、わたしのことはパティと呼んでください」 「はい、パティさん」 二人の神姫はすぐに打ち解けたようだった。 オルフェの相手をパティに任せ、美緒は安藤に講義を続けた。 神姫の扱い方や、メンテナンスソフトの使い方、装備の使用方法や役に立つ情報サイトまで。 教えているうちに二人とも夢中になってしまい、気がつくととっぷりと日が暮れてしまっていた。 ◆ 「今日はありがとな。助かった」 「ううん。気にしないで」 駅での別れ際。美緒は微笑むことができた。ようやく安藤と二人で話すことにも慣れ、楽しいとさえ感じられるようになっていた。 安藤は、頭を掻きながら、ちょっと照れたような表情で言った。 「なあ……八重樫の……その……ケータイの番号とメアド、交換してくれないか」 「……え?」 「またいろいろ相談に乗ってほしいんだ。……神姫に詳しい姉貴があんなだろ? 周りに詳しいヤツもいなくてさ……だめかな?」 それは願ってもない話である。 安藤智哉の携帯番号とメールアドレスなんて、クラスメイト女子が一番ほしがっている個人情報だ。 それを彼の方から交換して欲しいと言ってきている。 美緒はすでに夢心地ですらあった。 夢遊病者のような手つきで、安藤に携帯端末を差し出す。 意識はふわふわと宙を漂っており、ことの成り行きを全く理解していなかった。 数分後、二つの携帯端末を操作し終えた安藤は、片方を美緒に差し出した。 美緒はまた夢遊病者の手つきで端末を受け取る。 安藤ははにかむように笑った。 美緒もつられて笑ったが、なんだか不自然に不気味な笑いになっていたような気がする。 安藤はそれを気にもしない。 「今度は、八重樫たちが行ってるゲーセンに連れてってくれないか?」 「え、ゲーセン?」 「そう。バトルロンド……オレもやってみようと思うんだ」 屈託なく言う安藤を美緒は見つめてしまう。 もちろん、美緒に断れるはずもないし、断る理由もない。 「うん。わたしでよければ、案内するわ」 「やった」 にっこりと笑うと、彼は身を翻した。 「それじゃあ、八重樫。また明日な!」 「うん、また明日」 彼の背に向かって、美緒は小さく手を振った。 美緒の胸はいまだドキドキが止まらない。 ◆ 夢のような怒濤の一日が過ぎてゆく。 美緒は自室のベッドに寝ころび、天井を見つめながら、今日あったことを振り返る。 安藤智哉は憧れだった。 あんな人が彼氏だったら、きっと素敵だろう、そう思って、遠くから見ていただけだった。 彼の素敵なところを見つけては思いを募らせても、決して手の届かない人だと思っていた。 それが今日一日で一変した。 いま美緒が手にしている携帯端末のアドレス帳、その一番最初に「安藤智哉」の名前が表示されている。 美緒はため息をつく。 これはなんという夢なのだろうか。 このまま安藤と仲良くなれば、親しい友達になれるだろうか。 ひょっとして恋人になんて、なれる可能性もあるだろうか。 軽く頭をふり、そんな妄想を打ち消す。 でも、せめて、今のわたしと陸戦トリオの遠野さんくらいには近い関係になることを望んでも、罰は当たらないと思う。 そんなことを考えていると、 「安藤さんは……美緒のことが好きなのではないですか?」 彼女の神姫・パティが大砲を放った。 美緒はその場で転げ回る。 がば、と上げた美緒の顔は、これ以上ないほど真っ赤だった。 「んなっ……何言っちゃってんの、パティ!?」 「美緒と一緒にいるときの安藤さん、とても楽しそうでしたし……憎からず思っているのではないかと」 「そんなこと……安藤くんがわたしを好きだなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないわ」 そう、あり得ない。 その可能性を、賢い美緒が考えなかったと言えば、嘘になる。 だが、美緒はそれを自ら強く否定した。 彼と自分とでは、何もかも違いすぎるのだ。釣り合いが取れないし、なによりそんなことを考えること自体が厚かましい。 だが、パティは首を傾げる。 どうして自分のマスターは、こう自分を過小評価するのか、と。 神姫である彼女の贔屓目を差し引いても、美緒は美人であると思う。 もっと自信を持てばいいのに。 それに、気のない女の子をわざわざ自宅に呼んでまで、神姫の相談をするだろうか。 別れ際に連絡先の交換なんて、気になる相手でなければしないのではないか? パティは冷静に、そう分析していた。 マスターと神姫の思いは平行線をたどりつつ、夜は更けていった。 続く> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/zensensyu/pages/2503.html
武装神姫 491 名前:1/5:2009/09/02(水) 10 58 01 ID V4ZLqb3o0 光成「地上最強の神姫を見たいかーーーーッ」 観客「オーーーーーーーーーーーーーー!!!!」 光成「ワシもじゃ ワシもじゃみんな!!」 光成「神姫入場!!!」 アナウンサー「全武装神姫入場です!!!!」 全武装神姫入場!! 3.3mm軸は生きていた!! 更なる研究を重ねフィギュアが甦った!!! 記念すべき第1弾!! ストラーフだァ――――!!! 総合格闘技はすでに我々が完成している!! 第2弾マオチャオだァ――――!!! 組み付きしだい投げまくってやる!! Exウェポンセット代表 グラップラップだァッ!!! 素手の殴り合いなら我々の火力がものを言う!! 戦車の一撃 インファイター ムルメルティア!!! 真の護身を知らしめたい!! プチマスィーンズ装備 ハウリンだァ!!! 命中率は3階級制覇だが総火力なら全種目オレのものだ!! ロシアのスナイパー ゼルノグラードだ!!! 暗闇対策は完璧だ!! 兎型MMS ヴァッフェバニー!!!! 全神姫のベスト・売れ残りは私の中にある!! 赤壁の神様が来たッ 紅もr…じゃなくて紅緒!!! 遠距離なら絶対に敗けん!! 軍隊のケンカ見せたる 狙撃隊長 フォートブラッグだ!!! バトル・モード(収穫の季節)ならこいつが怖い!! okama氏のピュア・ファイター ジュビジーだ!!! 第6弾から炎の寅が上陸だ!! 接近戦特化 ティグリース!!! 防御の無い戦闘がしたいからライトアーマー(軽装)になったのだ!! プロの一撃を見せてやる!!ヴァローナ!!! めい土の土産に満面の笑顔とはよく言ったもの!! 達人の奥義が今 実戦でバクハツする!! シスター型MMS ハーモニーグレイス先生だ―――!!! 世界ヘヴィ級トライクこそが地上最強の代名詞だ!! まさかこの娘がきてくれるとはッッ イーダ!! 飛びたいからここまできたッ キャリア一切不明!!!! 和風の戦闘機(巫女)型MMS 飛鳥だ!!! オレたちは昆虫最強ではない全神姫最強なのだ!! 御存知カブト型 ランサメント!!! 組み換えの本場は今や第9弾にある!! オレを驚かせる奴はいないのか!! エスパディア!!! 胸がデカァァァァァいッ説明不要!! 褐色肌!!! 間垣亮太制作!!! グラフィオスだ!!! トライクは実戦で使えてナンボのモン!!! 超実戦車両!! CHOCO氏の下からアークの登場だ!!! 可愛さはオレのもの 邪魔するやつは思いきり撃ち思いきり血を吸うだけ!! 武装・神姫吸血王者 ウェスペリオー 持ち歌を試しにコナミへきたッ!! のど自慢全神姫チャンプ シュメッターリング!!! 隠密に更なる磨きをかけ ”第5弾”ヴァッフェドルフィンが帰ってきたァ!!! 今の自分に死角はないッッ!! 花型・神姫ジルダリア!! 西洋二千年の剣技が今ベールを脱ぐ!! 第3弾から サイフォスだ!!! ご主人様の前でなら私達はいつでも全盛期だ!! 新しい素体 パーティオ&ポモック セットで登場だ!!! 自慢の装甲はどーしたッ 胸アーマー 未だ平らッ!! 慰めるも撫でるも思いのまま!! エウクランテだ!!! 特に理由はないッ 釘宮が強いのは当たりまえ!! 患者にはないしょだ!!! 日の下開山! ツガルがきてくれたゾ―――!!! 医療現場で磨いた実戦応急処置!! 眼鏡っ娘のデンジャラス・ナース ブライトフェザーだ!!! 母性だったらこの人を外せない!! 超A級包容力 イーアネイラだ!!! 超一流神姫の超一流のおっぱいだ!! 生で拝んでオドロキやがれッ 清水栄一と下口智裕のコラボ!! ウィトゥルース!!! 量産体性はこの娘が完成させた!! 島田フミカネの切り札!! ウェルクストラだ!!! 若き王者が帰ってきたッ どこへ行っていたンだッ チャンピオンッッ 天使型あーんばるがいいと思うのッッッアーンヴァルの登場だ――――――――ッ 加えてコレクター発生に備え超豪華な通販限定神姫を4名御用意致しました! 忍者 フブキ!! 「ハヤテのごとく!」 三千院ナギ!! バトロン元ラスボス!ミズキ! ……ッッ どーやらもう一名は開発が遅れている様ですが、情報が載り次第ッ皆様にご紹介致しますッッ 関連レス 501 名前:水先案名無い人:2009/09/03(木) 01 04 15 ID IP3Z5VuG0 491-495 若き王者が帰ってきたッ どこへ行っていたンだッ チャンピオンッッ 天使型あーんばるがいいと思うのッッッアーンヴァルの登場だ――――――――ッ アスミスファンの俺歓喜wwwww コメント ストラーフが最初で、アーンヴァルが最後とかよくわかっていらっしゃる - 名無しさん 2015-01-12 14 47 37 名前
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/567.html
暗き過去に、深き眠りを(後編) どうやら“かまきりん”の制御は、本体たる神姫素体から蟷螂頭の方に 移ったらしい。恐らく昆虫の頭に専用のAIが仕込んであるのだろう。 AIの導入自体は誰もがやっている事なので構わないが、この使い方は 少々解せなかった。神姫の意思を無視する事は、私もアルマも赦せん! そしてアルマは“アサルトキャリバー”を起動させ、距離を詰める!! 「……ここからは、本気で行きますッ!!」 「Shaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」 「行け“かまきりん”!何かされる前に切り裂いちゃえ!!」 そっと、アルマが自らの腰に手を当てた。ベルトのバックル部分だ。 縁に偽装されたレバーを半分起こすと同時に、“Heiliges Kleid”の アーマーが浮き上がり、垂れ下がっていたマント部分が水平に立つ。 その縁は実剣の様に研ぎ澄ましてある……全てはこの時の為なのだ! 『Plug-out!』 「G、Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!??」 「アルマ!……よし、装備の折り込みと展開は成功した様だな」 再び電子音が叫ぶ。同時にアーマー全体が爆ぜ、四方に飛び散った! 鋭利な装甲板が幾つも胴部に刺さり、蟷螂の悲鳴が空間を支配する。 そして肝心要の爆心地には、既に先程までのアルマの姿はなかった。 ダメージをどうにか堪えた魔物が必死になって、“敵”の姿を探す。 「ぶ、ぶひ!?どういう事……?“かまきりん”ッ!!」 「Urrrrrrrrrrrrrr……!?」 「ここです、あたしはここにいます!」 「ぶふぅ!?あ、あれは……“あくまたん”!!」 皆の視線が上に集まる。キャノンの誘爆やアルマの“装甲排除”によって 鍾乳洞の天井は一部崩れ、外の光がエンジェルラダーの様に差していた。 その輝きを背に天へ舞うのは、黒き一人の武装神姫だった──アルマだ。 「……いいえ、そうじゃないですよ猪刈さん……ッ!!」 「Grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr……!?」 「あたしは、紅星の閃姫(ロードナイト・ヴァルキュリア)です!」 紅き星の閃きを持つ戦乙女……私が三人の為に考えた二つ名の一つだ。 ロッテに以前約束した事柄であるからな、二人にも是非与えたかった。 センスが壊滅的な猪刈めには、一生こういう思考は宿らぬだろうがな? 「ろ、ろっ?な、なんだよそれ格好悪い……“かまきりん”!!」 「Syarrrrrrrrrrrrrrrrrrrrraa!!!!」 「紅き“戦乙女”の名にかけて……この戦い、頂きますッ!」 悪魔の意匠を一部残す物の、頭上に輝く“天使の環”と弾倉機構を持った 大いなる槍に盾……ロッテに引けを取らぬ“戦乙女”の姿がそこにある! 翼の狭間にある二基のブースターは、さながらアルマの頭髪にも見えた。 ロッテの勇姿と他に大きく違うのは……大型化した腰部のスカートだな。 「なんだよ、ナマイキ言っちゃって!撃て撃てッ!!」 「Shagyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」 「マイクロミサイル!?……ですが、この程度ッ!」 変わり身にすっかり興奮した蟷螂めは、命令通りに全身の装甲から ミサイルを放つ。だが、撃っているのは“かまきりん”ではない。 砲撃特化のフォートブラッグなら兎も角、この程度の戦術AIなら ミサイルの弾道制御も上質ではない。全身のブースターを噴かし、 無数の弾幕を振り解きつつ上空から一気に接近……背後を取った! 「一気に攻めろ、アルマ!勝負を決めてしまえ!」 「はいっ!この槍で……魔物を、倒しますッ!」 ここが最大の勝機と見て、私は最後の指示をアルマへと与える。 猪刈の判断不足に付け込んで、一気に畳み込むチャンスなのだ! 「ブレードスカート起動……はぁあっ!」 「Shaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」 「鎌が!?な、なにしてんだよぉ、斬れ、踏めっ!!」 “妹”は私の言葉を受けて、スカートに仕込んであった“腕”を 展開。その先端に据えられた六本のブレードを高速回転させて、 振り返りざまに斬ろうとしてきた蟷螂の鎌を、跳ね飛ばした!! 皮肉にも、同じ第四弾のジルダリア・ジュビジー両方のタイプを 参考にした新武装、“ヴァルキュリア・ロクス”の一撃だった。 「貴方の腕は二本。私には……もっと沢山の腕があります!」 「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!?」 「か、“かまきりん”ッ!?」 そう宣言したアルマは、左手のバックラーを水平に構え……発射! いや、より厳密には盾に仕込まれたクローアームを展開したのだ。 鈎爪は過たず蟷螂の頭を捉え、アームの先端に仕込まれた銃器…… “ジャマダハル”サブマシンガンが複眼式カメラアイを粉砕する! 「捉えました……これで、決めさせてもらいますっ!」 「AhhhhhhhhGyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!!」 「ぶひぃ~っ!!!ば、バカなバカなぁっ!?」 AIの戦意が薄れた瞬間を狙い、アルマは胴体を垂直方向に貫く形で 左手で支えた槍を突き刺し、右手に掛かった“トリガー”を弾いた! 同時に炸薬の衝撃で、鋭い穂先が蟷螂の機関部へと叩き込まれる!! 「──────フォイエルッ!!」 「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!???!」 「ぶひぃ~っ!!!ば、バカなバカなぁっ!?」 アルマが“別のトリガー”を弾いた瞬間、忌まわしい蟷螂の上半身は 木っ端微塵に爆ぜる。“かまきりん”の武装は全滅、勝負ありだな。 裂帛の轟音が止んだ後には、胴体を砕かれ藻掻き苦しむ魔物が居た。 「ど、どういう事だよッ!?なんで槍だけで爆発ぅッ!!?」 「零距離砲撃をしてはならないと、誰も決めておらんだろうが」 「今回は、シュラム用のグレネード弾を撃ち込んでみましたよッ」 右手の“フラーメイェーガー”は、一見してただのランスではない。 炸薬によるパイルバンカー機能は勿論の事、穂先を通して敵の体内に 弾丸を撃ち込む事が出来る、“零距離砲撃の為の銃”でもあるのだ。 リボルバー機構まであるのに全く気付かない、猪刈めの眼力が悪い。 「今出してあげますから……やああっ!!」 “ヨルムンガルド”を拾ったアルマが、残った蟷螂の躯を斬り捨てる。 その中には、悪夢から醒めつつある“かまきりん”が横たわっていた。 感極まったアルマは武器を全て降ろした後、彼女をそっと抱き寄せた。 「う、ぅ……あれ、小官は……まだ生きてる……?」 「ユニットが壊れて、正気を取り戻したのか。何よりだ」 「……よかったです。助かってよかった、助けられた……!」 「小官の負けみたいですね……話を、聞かせてください」 『テクニカルノックアウト!勝者、アルマ!!』 「これであたしの過去も精算できました、マイスター!」 こうして戦いは終わり、二人は無事にヴァーチャル空間を抜け出した。 以前の時と同じ鐵を踏まない為に、私はエントリーゲートからアルマを 素早く回収……すぐに猪刈の所へと向かった。案の定口論をしている。 別れ際にアルマが2~3助言をした為か、“かまきりん”の目は鋭い。 洗脳か自閉症か分からんが……ともあれ今は、それを振り払った様だ。 「なんであんな負け方するんだよぅ!お前までバカかッ!?」 「お言葉ながら……小官にもマスターを選ぶ権利がある筈!」 「そう言う事だ猪刈。衆人環視の中で約束を破るか、貴様?」 「う、うぐっ!う、煩い!そんな約束なんか……ゲゥッ?!」 あのバカが“かまきりん”を破壊するよりも早く、ロッテが動いた。 私の肩を蹴って跳躍し、猪刈の眉間を“フェンリル”で殴ったのだ。 鉛玉を撃ち込むよりは遙かに弱いが、奴を気絶させるには十分だな。 「蒼天の旋姫(セレスタイン・ヴァルキュリア)が、見届けてますの」 「……ロッテや、二つ名とはバトルエントリー時に名乗る物だぞ?」 「これだって立派なバトルですの。あの娘を救い出せましたしね♪」 「忝ない。後、相談なのだが……マスターを捜していただけないか」 「引き受けよう、最早猪刈などの元で苦しむ事がない様に手配する」 ──────悪夢は必ず醒めるよ、朝はきっと来るのだから。 次に進む/メインメニューへ戻る